画像生成AIを利用して生み出された画像の中には、まるで本物の写真かと見間違うほど高品質なものも存在しています。
そのため、「画像を大量に生成するAIを活用すれば、漫画作成も可能になるのでは?」と考えられる方もいらっしゃるかもしれません。
実際、AIを利用して作成された漫画は存在しています。
まだまだ発展途上の分野ではありますが、日々研究が続けられており、将来的にはAIを利用した漫画制作は一般的になるかもしれません。
本記事では、そんな漫画制作とAIの組み合わせについて、基本的な概要から簡単な制作方法、さらには注意点などについて解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
|AIを利用して制作された漫画が発売
2022年は様々な画像生成AIソフトが登場し、それらに対する注目が一気に高まりました。
そして2022年夏、Rootportという人物によって童話の「桃太郎」をベースにした漫画が発表されました。
漫画のタイトルは『サイバーパンク桃太郎』。
画像生成AIとしてMidjourneyの「Ver.3」が利用されています。
そしてこの作品は、新潮社から漫画本として販売されるまでになっているのです。
RootportさんはAIによる画像生成に対して、「絵ではなく物語を伝える記号」と割り切っています。
高度なレベルの画像生成が可能なAIですが、人間が描くように細かい部分の指定はできません。
そのため、現状ではある程度の妥協が必要になるそうです。
しかし、「品質の高い画像」を「大量に生成できる」というポイントは大きな強み。
あらかじめキャラクターの表情を数百枚ずつ生成しておき、その場面に応じた画像を使用するという手法によって作成していきます。
|イラスト作成AIを利用した漫画制作一例
絵が苦手な人でも、画像生成AIを活用すれば気軽にマンガ制作が可能です。
こちらでは、その手法の一例として下絵から漫画を制作する方法について解説します。
下絵を作成
想定通りの画像をAIに生成してもらうには、ある程度の全体像を提示する必要があります。
そのため、PhotoshopやIllustratorといったペイントソフトを利用し、簡単な下絵を作成していきます。
もちろん、紙とペンで描いたイラストを写真に撮影して提示することも可能です。
主要キャラクターのイメージ、背景、コマ割りといった部分をざっくりとこの段階で決めていきましょう。
Stable Diffusion等のAIソフトにてイラストを生成
下絵として描いたイラストを、画像生成AIに読み込ませます。
画像から画像を生成する機能である、「img2img」を利用してAIに清書してもらいます。
この時、下絵の工程を飛ばしテキストからの生成も可能ですが、思ったようなイラストが出てこない可能性が高くなります。
そのため、大まかな全体像としての下絵は重要になるでしょう。
生成された画像は全体として上手くできていると感じられますが、部分的におかしく見える箇所もあります。
しかし、全てを利用するのではなく、コマ割り時に一部をカットして使用しますので、そこまで気にする必要はありません。
イラスト素材を手作業で修正
AIは同じ顔を連続して生成することを苦手としています。
また、手の表現も苦手としており、指が複雑に絡み合った造形や、実際よりも多い指の本数になることも少なくありません。
そのため、AIによって生成された画像の一部を手作業で修正する必要があるのです。
Photoshopといった編集ソフトを活用すれば、そこまで苦労すること無く修正は可能でしょう。
おかしい部分を修正し、足りない部分を書き足すなどといった微調整を行う必要があるのです。
|漫画制作をサポートするAI
現在、漫画制作をサポートするAIサービスの提供が始まっています。
画像生成AIを利用した方法ではなく、漫画に特化したAIであるため、より簡単な漫画制作が実現するでしょう。
こちらでは、以下の2種類をそれぞれ紹介します。
- Comic-Copilot
- FramePlanner
Comic-Copilot
Comic-Copilotは、人気漫画雑誌の週刊少年ジャンプを手掛ける企業、集英社のジャンプ+編集部が協力して開発されました。
漫画制作に関する全てに対応しているのではなく、作業内容の一部をサポートすることを目的としています。
例えば、セリフ等の文章について、短くしたい場合の案を提示、また別の表現に言い換えるなどが可能。
また、漫画自体のテーマやタイトル、キャラクター名などの固有名詞についてもアイデアを出してもらえます。
また、仮想の読者からの反応を得るなど、物語の面白さなどを客観的に確認できます。
ここまでの内容から、「ChatGPTと大差ないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、ChatGPTの場合は自由度が高すぎることが、漫画制作においては逆にデメリットになる可能性があります。
つまり、高機能すぎて使いこなすことを困難に感じられるかもしれないのです。
しかし、Comic-Copilotはマンガ制作に特化したAIサービスですので、手軽に的確なアドバイスを手に入れられます。
今後、漫画作成の現場で活用が広がる可能性が高いサービスです。
FramePlanner
FramePlannerはAIを活用して画像を生成されている、じょにがたロボ(@jonigata_ai)さんが開発しているツールです。
これまでのAIを利用した漫画作成とは異なり、より実用的な機能が盛り込まれています。
コマ割りのフォーマットを選択することで、誰でも簡単に漫画のレイアウトが作れます。
用紙サイズも選択できますので、実際の紙面イメージを反映した漫画制作が可能です。
吹き出しを入れたいポイントを選択するだけで、簡単にセリフを挿入できます。
頻繁に更新が行われているため、今後もますます利用しやすいサービスに進化していくことが考えられるでしょう。
更新によって追加された機能は多く、一例として以下のような項目が上げられます。
- セリフの横書き対応
- 斜めの枠線
- 画像の左右反転
- 吹き出しへの画像、リンク挿入
- 集中線
- 吹き出しのしっぽ
- 用紙の背景変更
このように、漫画作成に必要なベースがどんどん整っています。
今後も機能は拡充予定ですので、要注目のサービスだと言えるでしょう。
|AIを使用した漫画の課題
AIを活用した漫画制作は非常に画期的な出来事です。
しかし、新しい技術であるが故に、抱えている課題もいくつか存在しています。
著作権について
まず第一に、AIを利用して作成した漫画で無視できない課題として著作権が挙げられます。
現在の法律では、「AIを利用して生成したイラストに著作権は発生しない」という認識が一般的になっています。
そのため、AI生成を活用した漫画についても、同様の認識が適応されると思われます。
しかし、自動補正ツールなどを補助的に利用した制作物については、著作権として扱われるという面も存在しているのです。
つまり、漫画の構図やイラストの細かい部分をAIに指示を出して生成した漫画については、著作権が発生することも考えられます。
AIを利用した全ての画像に対して著作権は発生しないとはいえない状況なのです。
このように、AIを利用した漫画の著作権は解釈が曖昧で、法整備が不十分です。
思わぬ被害に巻き込まれないためにも、しっかりと注意を払って取り扱う必要があります。
画像生成AIの性能
文字通り、人間離れした速度で高品質の画像を大量に生成するAIですが、まだまだ万能とはいえない状況です。
例えば、漫画では主人公や脇役など、頻繁に登場するキャラクターは同じ顔を描き続ける必要があります。
このように、同一のイラストを生成することをAIは苦手としているのです。
そのためコマによって微妙なばらつきが発生する可能性もあるため、細やかな指示が必要になります。
また、最も指摘されるポイントとしては手および指の表現です。
5本の指を再現することを苦手としており、5本以上の指を持つ場合や複雑に絡み合った現実離れした造形になることも少なくありません。
このように、想定どおりのイラストが瞬時に生成されるとは限りませんので、AIに対する指示のコツや根気などが求められるのです。
|漫画制作の現場を変える可能性
一般的に、漫画家という職業は過酷な環境だといわれています。
特に週刊連載の場合は休みも取れず、睡眠時間もろくに取れないということも珍しくありません。
AIを活用した作品制作は、このような漫画家の労働環境を根本から変える可能性を秘めています。
すでに、一部のイラストレーターの間では、自分の作風を学習させたAIを活用し、作業を効率化しているという事例も存在しています。
同様に、漫画家の作風を学習させることで、大まかなネームの状態から一気にAIが清書まで仕上げることも不可能ではないでしょう。
そうなれば、漫画家は作画に割いていた労力をアイデアやストーリー構成などといった、より読者を楽しませる仕掛けづくりに集中できるかもしれません。
また、現在はスマホ全盛の時代であり、漫画の競合は漫画ではなく、各種SNSや動画配信サービスへと移り変わっています。
漫画というコンテンツをより強固に進化させるためにも、AIを活用した作品づくりが今後求められていくかもしれません。
|まとめ
画像生成AIを活用したマンガ制作について解説しました。
2023年現在のAIは、ChatGPTに代表されるように、テキストベースでのやり取りを非常に得意としています。
また高品質の画像を大量に生成することも、かなりのレベルで実現しているといえます。
しかし、漫画のようにイラストと文章を組み合わせた表現にはまだ対応していません。
このように複合的な表現は、まだまだ人間の手によって修正、対応する必要がある状況です。
しかし、ある一定の作業の補助などといった用途であれば、すでに即戦力となるポテンシャルを秘めています。
漫画制作に特化したAI開発について、今後の動向に注目すべきといえるでしょう。