近年、医療業界でもメタバース技術の導入が進みつつあります。

医療従事者の不足や地域格差といった社会課題の解決手段として、医療従事者の教育、遠隔医療、リハビリ支援など多岐にわたる応用が期待され、実際に導入する企業も増加しています。

本記事では、医療分野におけるメタバースの活用背景から具体的な事例、そして導入時の課題と対応策までをわかりやすく紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

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|医療現場でメタバースが注目される背景

医療現場では、メタバースの活用がこれまで以上に注目されており、その背景には深刻化する医療従事者の不足や地域医療の格差という日本社会が直面する課題があります。

厚生労働省の統計によれば、2040年には医師の地域偏在が一層進行し、都市部と地方で医療サービスの質に大きな差が生じる可能性があるとされています。

また、高齢化の進行により、医療需要が全国的に増大する一方、若手医療従事者の確保が難しくなっているのが現状です。

こうした問題を解決する手段として、メタバース技術が期待されています。

たとえば、VRを活用した遠隔教育やシミュレーションにより、地方の医学生や若手医師でも高水準のトレーニングを受けることが可能になります。

これにより、医療の質の均質化が図られ、地域格差の是正につながると考えられています。

|メタバースの医療分野での主な活用シーン

医療分野においてメタバースは、医学生や医療従事者の教育、遠隔診療、リハビリテーションなど幅広いシーンで活用されています。

ここでは、特に注目される3つの活用例を紹介します。

医学生・医療従事者向けVRトレーニング

VRを活用したメタバース空間でのトレーニングは、医学生や医療従事者の実践力を高める有効な手段として活用されています。

従来の座学や限られた実習時間では習得が難しかった外科手術の手技や緊急時対応の流れを、VR空間上で何度でも繰り返し体験できる点が大きな利点です。

たとえば、メタバース上の病院シミュレーションでは、リアルな患者モデルを相手に処置を行うことで、判断力やスキルを実践的に養うことが可能です。

特に、手術トレーニングにおいては、視覚・聴覚・触覚のフィードバックを再現することで、実際の現場に限りなく近い環境が整備されつつあります。

遠隔診療や患者とのコミュニケーション

メタバース技術は、遠隔診療や患者とのコミュニケーションの質を向上させる新しい手段として導入が進んでいます。

オンライン診療が一般化する中で、患者との信頼関係の構築や身体的な動作確認など、従来のビデオ通話では難しい課題が指摘されてきました。

そこで、アバターを使ったメタバース診療により、より自然な対話や非言語情報の把握が可能になります。

このような新しいアプローチは、高齢者や移動困難な患者への医療提供の質を高めるだけでなく、医師側の負担軽減にもつながります。

リハビリテーションや認知症ケア

メタバースは、リハビリテーションや認知症ケアの分野においても活用が進んでいます。

従来の対面式リハビリではモチベーションの維持や通院の負担が課題となっていましたが、仮想空間を活用することで、これらの問題に対する解決策が提供されています。

具体的には、患者がバーチャル空間内で楽しく身体を動かすゲーム型リハビリが注目されており、自宅にいながら継続的なトレーニングが可能です。

また、認知症ケアにおいては、患者が思い出の場所を再訪する「バーチャル回想法」が効果を示しています。

過去の写真や映像をもとにした空間を再現することで、記憶の活性化や情緒の安定につながり、介護者とのコミュニケーションの質も向上するという報告もあります。

|メタバース医療の具体的な導入事例

メタバースは既に医療分野での実践的な活用が始まっており、複数の企業が独自の取り組みを展開しています。

以下では、国内の代表的な導入事例をご紹介します。

日本新薬株式会社

出典:https://www.nippon-shinyaku.co.jp/file/download.php?file_id=6750

日本新薬株式会社は、メタバース空間を活用した患者支援イベントとして「筋ジストロフィー Web市民公開講座&交流会」を開催しました。

本イベントは、メタバースプラットフォーム「XR CLOUD」を活用し、入院中の筋ジストロフィー患者を含む131名がアバターで参加しました。

第1部では奈良大学の井村修教授による「筋ジストロフィー患者さんのメンタルヘルスケア」に関する市民講座が行われ、心の健康に対する理解を深め、第2部の交流会では○×クイズや宝探しゲームを通じて、患者同士の交流が生まれ、アバターならではの気持ちの表現や仮想空間での一体感が好評を得ました。

株式会社インテージヘルスケア

出典:https://www.intage-healthcare.co.jp/news/d20230328/

株式会社インテージヘルスケアは、30~40歳代のがん患者を対象に、メタバースプラットフォーム「XR CLOUD」を活用した座談会を実施しました。

この座談会は、がんという極めてプライベートなテーマに対して、アバターを使うことで顔を出さずに安心して意見を述べられる環境を提供することを目的としています。

参加者は「病気について率直に話せた」「アバターのリアクションで安心感が得られた」など高い満足度を示し、メタバースが心理的な壁を下げる手段として有効であることが示されました。

外見の変化やプライバシーへの配慮が必要な患者にとって、アバターによる発言は新たなコミュニケーション手段となり得ます。

株式会社サムライト

出典:https://nouwakastation.kaigo-yobo.com/

株式会社サムライトは、シニア世代を対象とした介護予防分野において、メタバースを活用した革新的な取り組みを展開しています。

同社が提供する「脳若トレーニング」は、ITと人を組み合わせたコミュニティ形成型のプログラムで、定期的な交流を通じて高齢者の認知機能の維持と介護予防を目指しています。

この「脳若トレーニング」は、株式会社シティアスコムが提供するメタバース空間「地域貢献スペース」で実施されており、昭和レトロなデザインの仮想空間を舞台に、シニア世代がシンプルな操作で参加できる体験型イベントが開催されました。

参加者は、ゲームや会話を通じて楽しみながら認知機能を刺激し、継続的な参加を促される構造となっています。

株式会社comatsuna

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000092504.html

株式会社comatsunaは、メタバースを活用した法人向けメンタル支援サービス「メンサポドクター」を展開しています。

このサービスでは、社員が匿名性を保ったままアバターを通じて精神科産業医やカウンセラーと対話できる仕組みを提供し、メンタル不調の早期発見と予防を支援します。

従来の産業保健窓口では、企業側への情報漏洩を懸念して相談を控える傾向がありましたが、「メンサポドクター」では、企業を介さず社員が直接予約・利用できるため、心理的ハードルを大きく下げることが可能です。

また、相談内容の一部を匿名で企業にフィードバックする機能も備えており、離職予防や職場改善に役立ちます。

|導入にあたっての課題と対応策

メタバースの医療活用が進む中で、導入に際してはさまざまな課題も存在します。

ここでは、費用・技術・人材教育の3つの観点から課題と対応策をご紹介します。

費用対効果と予算確保

メタバース導入において最も大きな障壁の一つが、初期投資の負担と費用対効果の判断です。

VRデバイスや開発費用、保守運用のための予算が必要となり、中小規模の医療機関にとっては導入が難しいケースもあります。

特に、ROI(投資対効果)を明確に示すことが求められる場面では、導入に慎重な判断が下されがちです。

この課題に対しては、段階的な導入を試みる動きが進んでいます。

たとえば、パイロットプロジェクトを少人数で実施し、成果を数値化した上で、予算化に結びつける事例が増えています。

また、補助金や研究開発費の活用も検討材料の一つです。

ITインフラ整備

メタバースを活用するには、安定したITインフラの整備が不可欠です。

医療機関の中には、未だにWi-Fi環境が不十分であったり、セキュリティ対策が古いシステムに依存していたりする施設も存在します。

特にメタバースでは、リアルタイムでの大容量データ通信や3D描画処理が求められるため、ネットワークや端末のスペックが重要な要素となります。

この問題に対しては、クラウド型の軽量プラットフォームの活用や、Webブラウザ対応のVRサービスが解決策として注目されています。

通信コストを抑えつつ、安全性を確保できるインフラ構成の選定が鍵を握ります。

利用者側のリテラシー

メタバースを円滑に活用するには、利用者側のITリテラシーが重要なカギとなります。

医療現場には、デジタルツールに不慣れな高齢スタッフや非技術系の職種が多く、VR機器やアプリケーションの操作に対して不安や抵抗感を持つケースがあります。

また、患者側も高齢化が進んでおり、デバイスの装着やログイン操作が難しいという声もあります。

この課題への対応としては、マニュアルや動画による操作ガイドの整備、初回導入時のトレーニングセッション実施が効果的です。

さらに、UI/UXを極力シンプルに設計することで、スムーズな利用を促すことができます。

|まとめ

本記事では、医療業界におけるメタバースの活用事例と、その背景や導入課題について紹介しました。

医療従事者不足や地域格差の是正、教育の質向上、患者との新しいコミュニケーション手段の確立など、メタバースはさまざまな医療課題に対して具体的な解決策を提供しています。

実際に、VRトレーニングによる実践力強化や、がん患者・筋ジストロフィー患者との交流会、認知症ケア、シニアの介護予防、社員のメンタルヘルス支援まで、企業や医療機関による導入事例も増加しています。

一方で、導入には費用対効果の検証、IT環境の整備、利用者リテラシーへの対応といった課題も存在しますが、これらを乗り越えるための技術やノウハウも蓄積されつつあります。

今後、メタバースは医療の枠を超え、より多様な分野との連携を通じて人々の健康と生活の質を向上させる基盤となることが期待されます。

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