目の前に立体的な映像が浮かび上がり、特別な機器を必要とせず認知できる。

まるでSF映画のワンシーンのような技術です。

一見すると現実離れしているような光景ですが、実はすでに類似した技術は存在しています。

メガネやゴーグルをかけることなく、裸眼の状態で立体映像を視認出来る機器を「空間再現ディスプレイ」と呼びます。

SONYが開発したディスプレイであり、すでに幅広い業界において活用され始めています。

本記事では、そんな空間再現ディスプレイについて基本的な内容から、実際の活用方法について解説していきます。

ぜひ最後までご覧ください。

|空間再現ディスプレイとは一体何?

空間再現ディスプレイとは、SONYが2020年に技術参考展示をした「視線認識型ライトフィールドディスプレイ」を指します。

ディスプレイを見る人の視線を検知し、覗き込む角度に合わせて3Dコンテンツの表示をリアルタイムで制御します。

まるでそのディスプレイ上に存在するかのような立体映像を実現しました。

この技術が一般向けに販売された商品が、「Spatial Reality Display(空間再現ディスプレイ)」と呼ばれる「ELF-SR1」です。

販売価格は50万円前後と、デジタルデバイスとしては高価な部類に入るでしょう。

しかし、裸眼でありながらも立体的な映像を確認できることは、幅広い分野における活用が期待されるはずです。

「ELF-SR1」は15.6インチのディスプレイに加えて、コンテンツ制作用の開発ツールも合わせた形で提供されました。

ディスプレイ直下にはスピーカーも配置、さらにPCと接続するためのUSB、HDMIなども備え付けられています。

空間に立体映像が投影される様子はこれまでに無い視覚体験をユーザーに提供します。

2023年4月には後継機となる「ELF-SR2」が発表されており、今後の活用が期待されている分野なのです。

|空間再現ディスプレイの仕組み

立体映像を投影する空間再現ディスプレイは、一体どのような仕組みになっているのでしょうか。

以下の項目に沿って解説していきます。

  • センサーで視聴者の両目を感知
  • 映像を脳内で結合することで立体視を実現

センサーで視聴者の両目を感知

空間再現ディスプレイの基本的な仕組みは、2020年に公開された「視線認識型ライトフィールドディスプレイ」とほぼ同様となっています。

ディスプレイ上部に搭載されたセンサーによって視聴者の両目と顔の位置を確認、それらの情報を元に再生用PC内で必要となる映像をリアルタイムに生成します。

生成した情報をディスプレイ本体に送付し、パネルに配置された「マイクロオプティカルレンズ」を通じて、左右の目に映像を届けます。

その結果、特別な機器を必要とすること無く、裸眼のままで立体視が可能となったのです。

左右の目に映像を投影する仕組みとしては、すでにバリア方式が存在していました。

しかし空間再現ディスプレイでは、センサーで捉えた特定の人物にのみ全画面を使って立体視を届けるという点で異なっています。

映像を脳内で結合することで立体視を実現

空間再現ディスプレイは前述した通り、高速ビジョンセンサーで捉えた1人にのみ、パネルの全画素を利用して描写します。

そのため、従来のバリア方式よりも高い解像度で立体映像の細部まで表現でき、映像のつながりも滑らかになっているのです。

解像度は4K(3840×2160)であり鮮明。

マイクロオプティカルレンズを通して映像を分割して送信し、視聴者の脳内で結合させることで、立体視を実現しています。

本体価格は高性能PCと同等、もしくはそれ以上という設定ですが、メインのターゲットユーザーは3DCG制作など、コンテンツ制作に関わるクリエイターです。

平面ディスプレイでは中々確認しにくい点も、空間再現ディスプレイなら容易にチェックが可能となるでしょう。

|幅広い分野において活用され始めている

空間再現ディスプレイは、特別なメガネやヘッドセットといった機器を装着する必要がありません。

SONY独自の視線認識技術によって、左右それぞれの目に対して最適な映像を生成することに成功しています。

そのため裸眼であっても、驚くほどクリアで色鮮やかな立体映像が体験できるのです。

このような視覚体験はエンタメ分野だけにとどまらず、すでに幅広い分野において活用されはじめています。

こちらでは、以下の業界における事例をそれぞれ解説していきます。

  • 医療現場
  • 医療機器メーカー
  • 自動車産業
  • 印刷業界

医療現場

医療現場では患者に対し、より分かりやすい説明を行うためにVRゴーグルによる立体視が活用されていました。

しかし、相手の目を観ながら離せないことや、会話の空気が途切れてしまうという課題を抱えていました。

加えて、VRゴーグルはメガネを使用している患者の場合、装着の手間もかかってしまいます。

しかし、空間再現ディスプレイを利用することで、それらの課題を一気に解決できます。

患者と一緒に裸眼の状態で立体映像を確認できるため、会話の空気感を壊すこと無く施術の説明が実現します。

また、視野の狭い手術などにおいても、空間再現ディスプレイを通じて状態を確認できます。

学生に対する理解向上という面でも、大きく役に立っているのです。

医療機器メーカー

医療機器に関わるための知識として、どうしても人体に対する理解は必要となります。

人体を立体的に把握することは容易ではなく、多数の専門知識を必要とします。

しかし、空間再現ディスプレイを活用すれば、医療の専門家でなくても簡単に、脳から各内蔵、脊椎から血管といった人体構造を立体的に理解できます。

平面ではすぐに認識することが難しい、それぞれの位置関係などについても、立体視であれば直感的に確認可能。

裸眼で見られますので、実際に目の前に人体が存在しているかのようなリアリティを持って学習が進められます。

すでに医療機器メーカーの現場では、「もっと大画面で確認したい」や「クラウドで各拠点からアクセスできるようにしたい」といった要望が寄せられています。

今後も発展が期待される業界といえるでしょう。

自動車産業

自動車産業では、車全体の完成イメージを高いレベルでチーム内で共有する必要があります。

デザインを行う過程においては、その形状からたたずまい、細かい色味や光の当たり具合から影の形まで、あらゆる角度での検証が必要です。

従来、それらの工程はモックと呼ばれる実物模型を制作することで対応していました。

しかし今後は、空間再現ディスプレイを通じた確認に移行していくかもしれません。

裸眼で確認できる上に、再現できる情報としては十分すぎる性能を持っています。

短時間で立体視が実現できるようになれば、モックの制作回数を減らしたコスト削減や、デザインのリードタイム短縮にも繋がるでしょう。

車のデザインを根本から変える、ゲームチェンジャーにもなり得ると考えられています。

印刷業界

印刷業界では貴重な文化財、美術品といった作品のデジタル化からアーカイブ構築といった活動も行われています。

しかし、本来立体的な作品の魅力は、2次元画面を通してでは最大限伝えられないという課題を抱えていました。

また、従来の3Dディスプレイでは見る角度を変えても構図が変わらず、リアリティという面で納得いくものではなかったといいます。

空間再現ディスプレイを活用することで、作品の細部をデジタルデータで映し出し、あらゆる角度でじっくりと鑑賞可能となります。

表示される画像自体も解像度が高く、自然と手を伸ばして触ってみたくなる感覚があります。

今後は様々なミュージアムやライブラリーに保管されている文化財が、空間再現ディスプレイで再現されることが期待されます。

|まとめ

SONYが開発した空間再現ディスプレイについて、基本的な内容から活用現場について解説してきました。

裸眼でありながらも、あたかもそこに存在しているかのようなリアルの立体映像は、これまでにない視覚体験をユーザーに与えます。

これまで3Dプリンター等で出力していた情報の多くが、空間再現ディスプレイを通じて行われる可能性は高いでしょう。

本体価格はまだ高価であり、一般的に普及することはまだ先になるかもしれません。

しかし、技術が広がり機器価格も落ち着く頃には、裸眼での立体視は身近な存在になっているはず。

その時我々が触れるコンテンツの多くがどのように変化することになっているのか、今から楽しみですね。

今後の動向に注目しながら、期待して待ちましょう。