コロナ禍で広がったオンライン授業は、どうしても『代替』としてのネガティブなイメージがつきまといました。
しかし、オンラインでありながら実際の対面授業と同じような感覚で、しかもより効果的で子どもたちの心を動かす授業ができるとしたら?
それを可能にするのが、今注目を集めている「メタバース」です。
今回はメタバースが教育現場にどのようなメリットをもたらすのか、実際の事例を元に紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
目次
|メタバースを教育分野に活用する魅力
アバターという自分の分身を用いて、複数人が同時に3Dの仮想空間を共有できる。それが今、世界中で大きな注目を集めているメタバースです。
メタバースについては漠然と知ってはいるものの、それが教育現場にどのように活用できるかあまりイメージできない、という教育関係者は少なくありません。
そこでまずは、教育分野にメタバースを活用することのメリット、その魅力について知っておきましょう。
・ゲーム感覚で学べる。失敗への抵抗感をなくすことができる
イメージしやすいことですが、メタバースによって子どもたちはゲーム感覚で学ぶことができます。
そのことに眉をしかめる教育関係者も少なくないのですが、実はそれこそがメタバースを教育分野に活用する大きな魅力の一つ。
子どもたちはゲームと同じように間違えを気にせず、何度でも楽しみながらチャレンジできるのです。
例えば、理科の実験で間違えたときに爆発するようなエフェクトを仕掛けたら?実際には危険な実験も、子どもたちは楽しみながら取り組むことができるでしょう。
失敗を否定するのではなく、逆に間違いから新たな発見や気づきを得られるような授業設計を組み立てる。
そんな子どもたちのやる気を引き出し、より深く学べるような授業がメタバースでは可能になるのです。
・現実世界では取り扱えないものを用いて学習ができる
メタバースを活用すると、現実では不可能な授業も可能になります。
上の理科の実験はその一つの例ですが、現実の授業では扱えないような危険物質や、危険な動物なども簡単に授業に取り入れることができるようになります。
他にも社会の授業でパルテノン神殿を訪れたり、地球のマントルの中や月世界を歩いてみるというような、実際には行くのが難しい場所も子どもたちに体験させられます。
さらには応仁の乱や関ケ原の合戦など、歴史の一コマを追体験するような授業なども可能でしょう。
場所や時間の制限から開放される、メタバースでしかなし得ない授業は、きっと子どもたちの学習意欲を駆り立てるに違いありません。
・身体的な事情等でオフライン学習に参加できない人でも参加できる
時間や場所の制約を受けないということは、生徒の立場にも当てはまります。
コロナ禍のオンライン授業でも子どもたちは自宅にいながら授業を受けることができましたが、メタバースを活用した授業ではそのメリットをさらに推し進めたものとなります。
メタバースは自分自身の分身となる「アバター」を利用して参加するため、身体的な障害を持っていたり体が不自由な子、また病気で長期入院している子どもたちも、他の生徒と同じ立場で授業に参加できるのです。
またいじめなどで不登校を余儀なくされている子どもたちも、メタバースなら安心して学校に通うことができるでしょう。
メタバースは様々な事情で学習の機会が制限されている子どもたちに、新しい学びの「場」を提供することができるのです。
|教育業界でのメタバース活用事例を紹介
メタバースを教育現場に取り入れるメリットについては、十分に理解いただけたと思います。
ではそれを踏まえた上で、実際にメタバースを活用している教育業界の3つの事例を見ていきましょう。
・スタンフォード大学:Virtual Peopleで直感的な学習が可能に
スタンフォード大学では、Meta社(旧Facebook)が開発した「Virtual People」というメタバース・カリキュラムを導入。
同社が製造するVRヘッドセット「Oculus Quest 2」を使用し、授業のほぼ全てをメタバース内で行っています。
生徒たちは宇宙空間を漂ったり、真っ青な海の中でサンゴ礁を観察したりと、教科書やディスプレイでは得られない、リアルでインタレスティングな授業を体験しています。
2021年からスタートしたカリキュラムには数百人の生徒が参加し、年間で150日程度の時間をメタバース空間内で過ごしているとのこと。
同大学ではメタバースが単なるサポートではなく、すでに教育のメインストリームになりつつあるのです。
・角川ドワンゴ学園:普通科でのVR活用をスタート
IT企業のドワンゴが創立したのが、通信制高校の「角川ドワンゴ学園」です。『未来のネット学園』を目指す同校では、メタバースも積極的に活用。2021年4月からN高等学校とS高等学校の普通科で、メタバースを活用した授業を導入しています。
同校では生徒にVRヘッドセットを配布してメタバースで学べる環境を整備、履修可能な教材の過半数がメタバースに対応しているとのこと。紙の読み書き学習が中心だったこれまでの授業が、3Dの教材や歴史的遺跡に触れるなどの疑似体験を中心としたものに代わっています。
さらに同校では運動会もメタバースで実施。
メタバース内で生徒たちが驚くほど仲良しになり、結果として学習意欲が増すという副次的な効果も表れているようです。
メタバースによって、それぞれの生徒の興味に最適化した教育体験を得られるメリットは非常に大きい。
角川ドワンゴ学園の取り組みに、引き続き注目が集まりそうです。
・富士ソフト:アバターとして通うFAMcampusを開発
富士ソフトが開発したのが、バーチャル教育空間となる「FAMcampus(ファムキャンパス)」。
生徒は集合授業や個別授業など、各種指導形態に応じて用意されたフロアにアバターで通います。
先生も他の生徒もアバターで同じ空間に存在するため、オンライン授業では友達とおしゃべりできない、すぐにだらけてしまうという生徒側の問題だけではなく、個別のフォローがやりづらいという教師たちの不満も解消できます。
物理的な通学は不要というオンライン授業のメリットは残したまま、メタバースによってさらに教育の質を上げていこうという試みなのです。
|教育におけるメタバースのまとめ
失敗を恐れず、何度でも楽しみながらチャレンジできる。リアルな登校が難しい子どもでも教育の機会を損なわない。
これまでの授業では得られなかった体験教育が可能など、メタバースが教育業界にもたらすメリットは計り知れません。
事例からも明らかなように、教育現場へメタバースを導入することは遠い先の話ではありません。
教育にメタバースを積極的に活用することが、子どもたちと未来への大きな投資となるのは間違いないでしょう。