WEB3.0と呼ばれるデジタル技術の過渡期の中で、メタバースやVR、ARやAIなどさまざまな技術が進化し続ける中、製造業では「デジタルツイン」というあらたな試みが生まれています。

「デジタルツイン」と聞いて、ピンとくる人もまだ少ないと思いますが、

デジタルツインはとても合理的なシステムなため、

製造業だけではなくさまざまな業種のDX化に期待できる技術です。

そこで今回は「デジタルツイン」についての解説と活用事例をご紹介致します。

|デジタルツインとは?

デジタルツインとは、現実世界と「対」になるようにデジタル世界を作る事を言います。

例えば現実世界に存在するビルを、デジタル世界にも同じように建設します。

ただ、これだけでは「デジタルツイン」とはいいません。

デジタルツインの定義は「対になる」ことですので、

現実世界のビルをそのままデジタル空間に描くだけでなく、

現実世界と同様の環境条件を設定し、実際のビルと同じ時間軸で

同じように変化し続ける世界を作ることで「デジタルツイン」になるのです。

デジタルツインとほぼ同じ考え方は工学分野のシミュレーションのひとつとして

1960年代にNASAが編み出した手法で、アポロ計画でも活用された「ペアリングテクノロジー」という方法があります。

アポロ計画では地球側に実際つかう全く同じ機材設備を複製しておくことでリスクに対処する考えかたです。

実際、アポロ13号の月面着陸ミッションにおいて酸素タンク爆発トラブルが発生した際、

実物を検証しながらスピーディに適切な対応をすることを可能にしました。

ペアリングテクノロジーの概念が発展し、デジタルツインが生まれたことで

場所や物質的なコスト、時間などを削減し現実世界のシミュレーションや、

予測などを効率的に行うことが可能になります。

|デジタルツインと類似するメタバースとの違い

デジタル空間と類似したものとして、仮想空間「メタバース」があります。

「デジタルで表現する世界」という部分では同じですが、それぞれの空間に求められている部分が違うといっても過言ではありません。

今回のご紹介しているデジタルツインに関しては、あくまでも現実世界が軸になっていて、

現実世界の補助としてのシステム、リアリティがデジタルツインに求められています。

一方、メタバースに関しては現実世界とはまったくの別次元を表現することを求められているでしょう。

メタバースではアバターという自分の分身で、企業や個人が作り出した「ワールド」に入り、デジタル空間でのコミュニケーションが軸になります。

そのため身近な世界の延長線上とは別の関係性や空間、匿名性のSNSの文化の延長線上が初期のメタバースに求められていた事かもしれません。

別次元のイメージとしては映画マトリックスの世界観を想像すると、メタバースの概念を理解しやすいかもしれません。

しかし、現状はまだどちらも過渡期の技術のため現実が軸か、仮想空間が軸かはテクノロジーの発展により人の価値観も変化するでしょう。

メタバースとデジタルツインの違いついてさらに詳しく解説している記事はこちら

メタバースとデジタルツインって何が違う?実際の事例などを元に両者の特徴を解説
メタバースとデジタルツインって何が違う?実際の事例などを元に両者の特徴を解説

|デジタルツインに必要なテクノロジー

デジタルツインが発展する背景には、IoT技術や高性能な画像処理が可能なシステムと通信回線、多彩な情報処理を可能にするAIの存在が必要不可欠です。

・IoT(Internet of Things)

IoTはモノのデータを収集し、インターネットを利用してデジタル空間とつないだり、他のデバイスと連動させたりするシステムです。

カメラや音声、温度や湿度などさまざまなセンサーを駆使して、現実世界を数値化し、そのデータをデジタル世界と連動させる事で再現度の高いデジタルツインの根幹になっていると言っても過言ではありません。

・安定した通信回線

IoTで得たデータをリアルタイムで計測し続けるためには、安定した回線が必要です。

5G回線が普及したことにより、より精度の高いデータ収集が可能になりました。

インターネット回線は現在の世界には必須のインフラなので、通信回線は発展し続けるでしょう。

・AR/MR/VR、デジタル空間を可視化するシステム

現実世界を軸にする場合、非常に有効なシステムです。

実物にデジタル情報を投影したり、仮想空間で作業シミュレーションをしたりと、リアルタイムで行う作業や、事前に行う業務指導に活用できます。

・CAE(Computer Aided Engineering)

この技術はデジタルツインが始まる以前のもので、開発や設計、作業工程のシミュレーションなど、実際に工程に着手する前に事前に状況を予測するための技術です。

IoTの進化により得られる情報も多く、正確になったため精度の高い予測シミュレーションはデジタルツインの特徴を最大限に活かせます。

・AI(人工知能)

デジタルツインに集められたデータを集約して、分析するためにはAIが有効です。

さまざまなパターンが蓄積され、自動でシステムをブラッシュアップし続けるAIは従来の経験や勘に頼る方法とは違うアプローチで、精度の高い予測・分析が可能になります。

|デジタルツインのメリット・デメリット

実際にデジタルツインを活用するとどんなメリット・デメリットがあるのか順に解説していきます。

デジタルツインのメリット

デジタルツインのメリットは大きく分けて、以下の2点です。

  • コスト削減
  • 予知保全

コスト削減

デジタルツインは開発段階に関して、物質的なコストをかけず試作を繰り返す事が可能です。

例えばエンジンなど機械製品を作った場合、一回実物を作ってそれが実験の段階で壊れた場合、従来は再度修理したり、作り直したり試作機を複数つくるなど、多数の工程になりますが、デジタルツインを活用すれば、最初の実物から得たデータを蓄積し、実物をオーバーフローさせずにデジタル上のエンジンで限界まで稼働させたり、再構築したり出来ることでコストを下げる事が出来ます。

また、データを使えば予測も可能なため、予測をもとに試作も進み高品質な製品を従来より早く生み出すことも出来るでしょう。

予知保全

機械製品や工場など、さまざまな部品や製品が連動して動いている場合、どこかひとつ故障すれば全体の機能に影響し部品によっては全機能を止めてメンテナンスする必要があります。

デジタルツインで全体を監視していると、事前に不具合が出そうな箇所が予測が可能になり、修理履歴がデータで残るため効率的な修繕をスケジュールしたりすることが可能です。

デジタルツインのデメリット

デジタルツインのデメリットは大きく分けて以下の2点です。

  • 安定的な通信環境の確保
  • デジタル空間の管理

安定的な通信環境の確保

デジタルツインの根幹はIoT技術から得られるデータです。

これらが正確でないと誤差が積み重なり、現実世界とデジタルツインの乖離が発生します。

現実世界と連動している事で初めてポテンシャルを発揮するシステムですので、通信環境は生命線と言っても過言ではありません。

デジタルツインを導入している施設は、独立した通信環境やインフラを設けてリスクヘッジしていることもあります。

デジタル空間の管理

こちらも通信環境同様に重要な部分でしょう。

システム自体が複雑なため、自社ですべてを管理するのは困難です。

専門の企業と提携し、デジタルツインの保守管理も行うのでコストや人材の確保も負担になるかもしれません。

万が一、重要な場面でデジタルツインが使えない場合も想定した組織編成や業務フローを構築する必要もあるでしょう。

|デジタルツインの活用事例

実際にデジタルツインを導入し、実績を出している活用事例をご紹介します。

製造業などの分野が多いですが、アイデア次第では小売りやマーケティングにも活用できるシステムですので是非ご覧くださいませ。

ダイキン

出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01970/030200002/

エアコンなどの製造で有名なダイキン工業は工場の建て替えの際に、デジタルツインを取り入れた生産システムを導入しました。

各所の製造ラインには温度・湿度・二酸化炭素など環境の変化を計測するセンサーや、人の動きを察知する生体センサーと工場の制御データなどをデジタルツインで連動させ、異常を予測し事故を未然に防ぐ取り組みを行っています。

事故防止だけでなく、デジタルツインの副産物として前年度比で3割強のロスを削減できる見込みもあったようです。

旭化成

出典:https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2021/ip4ep3000000459e-att/ze211216.pdf

旭化成は化学、繊維、住宅、エレクトロニクス、医薬品等、さまざまな事業を手掛ける大手総合化学メーカーです。

旭化成のデジタルツイン導入の目的としては、マンパワーの効率化です。

2021年福島の水素製造プラントにデジタルツインを導入。

実務作業で専門性の高い工場や製品には熟練の技術者やベテランの存在が不可欠です。

ベテラン技術者が現場に不在の場合や、定年退職などで一時的に不足している場合など、マンパワーと知識を補うためにリモートで現場をデジタルツインで把握し、遠隔で対応できる仕組みをつくりました。

この仕組みを横展開で活用し、将来的には海外のプラントを日本国内から支援することも想定している様子です。

テスラ

出典:https://www.tesla.com/ja_jp/tesla-gallery

いまや世界一の電気自動車(EV)メーカー テスラは、製造する全ての新車にデジタルツインと連動するセンサーを搭載しています。

数々のセンサーからは車両の状態から気候条件も含む周辺環境データを収集しており、ドライバーの特性や使用環境に合わせて車両の管理を遠隔で行えるようにしています。

走行している全テスラ車は常に走行データを含めた情報を収集しており、それらをAIが分析し、車両に問題がある場合は無線ソフトウェアアップデートにより制御システムなどを修正するという取り組みを行っています。

また蓄積されたデータを用いて遠隔で車両診断を行えるため、顧客がサポートに問い合わせをする手間や、サービスセンターが実際に出向いて対応するコストを最小限にして効率的な運営を実現しているのも特徴的です。

|まとめ 

今回はデジタルツインについてご紹介しました。

デジタルツインとは現実世界とデジタル世界を連動させる技術です。

現実世界とデジタル世界を連動させることで、デジタル上で精度の高い予測や、遠隔地でも現場の状況把握が可能になります。

現状では製造業や工場などに活用される場面が主流ですが、コストをかけず現実世界より早く、リアルな予測検証ができるシステムは他の業界でも活用が注目されています。

センサーや通信環境などのデバイスが発達すれば、観光や小売りなど様々な業界において活用される技術です。