本は人間が情報を取得する手段として、数千年に渡って最も有効な手段として利用されてきました。

しかし現代では書籍の売上は低下しつつあり、読書習慣のある人も減りつつあります。

最も大きな要因としては、やはりインターネットの発達が考えられます。

いつでもどこでも簡単に情報を取得できるようになった一方で、その情報精度については疑問の声が投げかけられています。

近年、本に最新技術である「AR」を組み合わせた手法が登場しています。

情報に対する信頼度が比較的高い本と、ARを組み合わせることでどのようなイノベーションが発生するのでしょうか。

本記事では、そんな本とARの組み合わせについて、基本的な概要から活用の可能性について一挙解説していきます。

|ARと本を組み合わせるとどうなる?

ARとは「Augmented Reality」の略称です。

Augmentedは「拡張された」、Realityは「現実」という意味を指す単語であり、日本語では「拡張現実」といった意味合いで使われます。

現実世界に存在する景色や地形、物体などに対して、スマホ画面等を通じてプラスαの情報を付け加える技術を指します。

例えば、実際の部屋の中に原寸大の家具をARで配置してイメージを膨らませたり、机の上に置物を置いて雰囲気を確認したりといった用途で利用されます。

また、最も有名なARサービスとしては、「ポケモンGO」があげられるかもしれません。

実際の地形、道路といった現実世界をスマホ画面で投影すると、その画面上にポケモンが現れアクションを行えます。

このようなAR技術を「本」のページに組み合わせることで、これまでとは違った読書体験が提供できるのです。

本の中の絵が動く!

現在すでに、「AR絵本」と呼ばれるジャンルが存在しています。

こちらには「ビジョンベースAR」と呼ばれる技術が利用されています。

絵本に対してスマホカメラを向けるだけで、アプリが特定のページを認識し、絵が動く効果を与えるのです。

本来の絵本であれば、文章を読む前にその内容が絵を通じて分かってしまいます。

しかし、AR絵本の場合はその後の動き、展開がスマホ画面を通じてリアルタイムに連動するため、より臨場感を持ってストーリーを進められるのです。

「オチ」の部分がギリギリまで分からないということは、従来の絵本では不可能です。

同様の技術は絵本だけではなく、様々な本に対しても応用可能。

現在、新しい読書の形として注目を集めているのです。

なぜ絵が動くの?

本の中の絵を、スマホ画面を通じて動かす技術として「ビジョンベースAR」が活用されています。

AR技術にはGPSを活用した「ロケーションAR」という技術も存在していますが、こちらとはまた違った手法となります。

絵本に記載されているQRコードを読み取ったり、絵自体を画像認識したりすることによって、決められたアクションを実施します。

キャラクターや背景が動き回るだけではなく、特定のフレーズを読み上げることにも対応しているのです。

|ARと本の組み合わせ事例

すでに、ARと本の組み合わせ事例は多数存在しています。

こちらでは以下の事例にそって、それぞれ詳しく解説していきます。

児童用絵本

前述したとおり、ARと児童用絵本の組み合わせは非常に相性がいいといえます。

すでに専用アプリと連動したゲームが楽しめる絵本や、ページ内に記載されているQRコードを読みこむだけでアクションを起こす絵本が存在しています。

指定されたマークをスマホカメラで読み込むだけですので、文字が読めない子どもでも簡単に楽しめることが大きなメリットです。

物語に連動したARによって、子どもの想像力を高めるものなど、その種類も多種多様となっています。

内容の読み上げ機能等も存在していますので、両親が本の読み上げに対応できない時でも、1人での読書が実現します。

これらは子どもの読書習慣を身につけるために、有効な手段となるかもしれません。

また、文面だけでは理解しにくい表現や場面イメージも、ARを通じて簡単に理解させることができます。

実用書・マニュアル本

静止画と文章だけでは伝えられない、細かい表現を伝えられることは、実用書やマニュアル本においても大きな効果を発揮します。

従来、料理本などにおいて野菜の切り方などの方法については、細かい段階に分けた写真イメージのみで伝える必要がありました。

しかし、ARを活用することで、実際の切り方を簡単な動画と共に伝えることが可能になります。

他にも、調味料を入れるタイミングや適切な炒め具合といった、文面では伝わりにくい部分も適切に配信できるのです。

料理だけではなく、ストレッチやヨガといった自宅で出来る運動、ランニングフォームといった正しい身体の動かし方も正確に伝えられます。

絵の描き方、編み物、楽器演奏など、あらゆるジャンルにおいて、文章と絵、さらにARの組み合わせは高い効果を発揮するでしょう。

教材

学生向けの学習教材等についても、文章に加えて講義動画の配信がARを通じて可能となります。

例えば、算数、数学などの図形問題では従来、平面図形と文章の組み合わせのみで理解する必要がありました。

しかし、それらの説明についてもARによってより具体的な図形イメージを提示できます。

他にも理科の実験風景についてもその仕組から手法について、映像を配信することでよりわかりやすく説明可能。

英語学習についても実際の会話をドラマ形式で配信すれば、実例と共に会話内容を記憶できるでしょう。

図面だけでは伝えにくい口の動き、発声方法などもARを通じて指導できますので、自宅にいながら高いレベルでの学習が実現します。

旅行・グルメガイド

これまでは文章と写真のみでしか訴求できなかった旅行、グルメガイドにおいてもARは高い効果を発揮します。

旅行関連の情報は季節に応じて変化しますので、常に最新号を購入してもらう必要があります。

しかし、ARを活用することでおすすめ情報を、常に最新の状態に差し替えて配信できるのです。

つまり、書面でありながらも情報が古くならないということ。

各地域や観光スポットのPR動画を配信するなど、魅力を最大限アピールできます。

現地で役に立つ観光コースなどを登録した地図を配信できるなど、書面とスマホを最大限連動させた活用方法ができるのです。

雑誌・新聞記事

雑誌、新聞といった最新情報を伝える書面においてもARは有効です。

例えば、花火大会といった地域イベント、または成人式といった節目のイベントなどの様子を、ARを通じた動画で臨場感を持って配信できます。

また取材記事などにおいても、文面では伝えきれない風景や空気感を直接読者へ届けられます。

多くの読者に分かりにくい税金面の話題や、政治といった複雑な情報についても、ARを通じた解説動画を合わせて配信可能。

雑誌や新聞といった情報精度と信頼度の高さに加えて、ARを通じたより詳細な内容が加われば、情報取得先としてこれ以上便利で役に立つものはないでしょう。

新しい情報をいち早く、分かりやすく提供する手法として、今後活用が期待される分野だといえます。

雑誌の広告

雑誌や新聞には広告欄が必ず存在しています。

そちらの項目についても、ARは高い効果を発揮するでしょう。

例えば、車やバイクといった乗り物の紹介時、写真だけでは訴求出来ないライトの明るさ、内部の構造といった具体的なポイントを配信できます。

またイベント開催等のPRにもARを設定することで、より詳細な内容を伝えられます。

飲食店の予約についても、案内文だけではなく実際の紹介動画、さらには予約ページにまでダイレクトに誘導することもできます。

同様に求人広告などにおいても、リクルート動画の配信から応募までをシームレスに実現できるでしょう。

従来の広告欄よりも効果の高い手法となることが期待されるため、オプションとして広告単価のアップも可能かもしれません。

購入特典

雑誌や書籍の売上が苦戦している現在、購入特典として様々な付録を付ける場合があります。

それらの購入特典に対して、ARを組み合わせることで、より限定的なコンテンツに変化させられます。

例えば、ARを通じて表示される描き下ろしイラストやメッセージ動画、もしくはメイキング映像とったものは需要が高いと考えられます。

また、複数購入によるポイント加算といったキャンペーンも、AR付録と組み合わせれば容易に実現可能です。

他にもお正月の出版などではおみくじARを付けるなど、季節に応じた利用もできるでしょう。

購入特特典としてのAR利用はすでに、映画の来場者特典などで一部利用例が存在しています。

そのため、今後もますます活用されていくことが予想されるでしょう。

|まとめ

ARと本の組み合わせについて、その基本的な概要から実際の事例までを解説してきました。

インターネットが発達した現在においても、本は情報を得る手段として最も信頼度が高く、利用者も多い選択肢になっています。

しかしアナログハードであることから迅速な情報の更新や、新たな価値を付随させることが難しいという弱点を持っていました。

ARと本の組み合わせは、紙ベースの本とスマホ、つまりはインターネットを繋ぐことを可能としました。

この事実は、今後の本のあり方を根底から変化させる可能性を秘めています。

本記事でも解説したように、絵本から広告欄まであらゆる範囲において活用の可能性が考えられます。

これから発展することが期待されるARと本の組み合わせに、注目すべきといえるでしょう。