「AIが普及してくると多くの仕事がなくなっていく」といわれて何年にもなります。

多くの方は、いずれそうなると思いながらも「まだ先」と考えていたのではないでしょうか。

しかし、2022年11月に生成系AIのChatGPTが公開されると、その懸念は急速に現実味を帯びてきました。

そこで今回は、AIによってなくなる仕事とそうでない仕事、新たに生まれる仕事、仕事を失わないために必要なスキル等について解説します。

|AI化の現状

近年、ビジネスのみならず、日常生活においてもAIは想像を超える勢いで普及し始めています。

とりわけディープラーニングや自然言語処理の発展によって、予測、識別、提案、管理・監視、翻訳・要約、自動応答など、従来は人間が行っていた業務やそれを遥かに超えるレベルでのタスクをこなせるまでに成長しています。

その一方で、総務省の調査によると日本国内の2021年時点でのAI活用企業は、全体の24.3%にとどまっており、同35.1%のアメリカと比べると大きな開きがあるのが現状です。

AIが進化しているとはいえ人間並の思考能力には及ばない面があり、完全に信頼するまでに至らず導入には慎重になっている向きもあるようです。

|AIが仕事を奪うと言われている理由

そもそもAIが人間の仕事を奪うと言われているのは何故なのでしょうか。

人の代わりが務まるかそれを上回る能力がなければ、さすがに奪うまでには至らないはずです。

そこでその理由について具体的に解説しましょう。

単純作業を自動化・効率化できる

AIは、一定のルールに従ってカテゴリーを区分したり、集計したり、文書を作成して通知したり、問い合わせに応答するといったタスクが非常に得意です。

つまりパターン化できるような事務作業や単純作業については、いずれAIに置き換わっていく可能性が極めて高いと考えられています。

しかもAIは、人間のように体力や気力に限界はありません。

24時間・365日休みなく仕事を続けても不満を漏らすこともなければ、報酬も必要ありません。

人間関係で悩むこともなければ、争いをおこして社内の空気を悪くすることもないのです。

加えて指示されたことについてはミスなく完璧に作業を進められる点は、人間の能力を超えているといえるでしょう。

学習を通じて新しい創作ができる

AIは、機械学習によって、大量のデータからパターンを学習し、問題解決や意思決定を行うことができます。

すると人間では気づけなかったり、忘れてしまったり、見逃してしまったりする細かな部分や項目についても考慮したうえで、求められたテーマや課題に対する最適解を出すことができるのです。

学習データを増やせばさらにその精度を向上させることも可能です。

このメカニズムにより、伝統工芸やものづくりなどの世界で何十年ものキャリアを積んだ熟練の職人や作業員でなければできない、複雑で繊細な仕事を代替することができる可能性があります。

法律やマーケティングといった専門的な知識を要する仕事についても同じことがいえるでしょう。

|AIによってなくなる仕事

それではAIによってなくなると考えられる仕事についてみていきましょう。

ちなみに人がいなければ完了しない業務もあるので100%不要という意味ではありません。

少なくなるという表現が正しい職種も含まれます。

一般事務職員

かつては手書きが多かった事務作業は、パソコンやさまざまなソフトの登場により大幅に効率化されました。

これによって一般事務作業員の人数や採用数は確実に減少してきました。

ここからさらにAIの導入が進んでいくと、パソコンを使って行っていた単純作業はもちろん、データや数字を使った分析や計算などもある程度代替可能となります。

すると企業にとっては、人的コストやスペースなどの削減が実現するメリットがあるでしょう。

銀行員

銀行では、パターン化された事務作業が多く、高い正確性が求められる数値計算も少なくありません。

これらの業務はAIが非常に得意なため、多くの銀行員の仕事が奪われると考えられています。

しかもATMやインターネットバンキングの普及によりさらに事務作業は減少傾向にあります。

銀行が多くの利益を獲得する融資の際の与信判断についても人ではなくAIを導入する動きがあるので、上層部の人員削減の可能性も高まっています。

警備員

治安維持や事故・事件防止の観点から警備業務への需要は、各所で非常に高まっています。

しかし業界としては自動監視カメラにより、AIを使った24時間の監視体制が普及しつつあるので、むしろ将来的には警備員の数を減らす方向にあります。

巡回が必要な警備についても、AIを搭載した自動巡回ロボットが導入され始めており、その機能や不測の事態への対応力などが向上すると、さらに警備員の数は削減されていくと考えられます。

スーパー・コンビニ店員

規模の小さなスーパーやコンビニでは、無人レジの普及や無人店舗の実証実験が増加しています。

AIを活用することで客の顔や姿を記憶、認証し、購入した商品を瞬時に見分け、清算、現場での問い合わせには自動で応答するといったことが可能になります。

また、一定の知識や経験が必要とされる発注業務もAIによる自動化が急速に進んでいるため、今後はスーパーやコンビニ、さらに百貨店においても店員が少なくなると考えられます。

建設作業員

建設業界では、慢性的な人材不足と怪我や事故などの危険防止の観点から、さまざまな作業においてAIによる自動化が進められています。

すでに大幅に進んでいる自動操縦ロボットに加えて、AIを搭載した重機やブルドーザー、掘削機などにより作業員の仕事が代替され始めています。

建設現場以外にも橋梁や大規模施設、ビルなどの点検業務もAIを搭載したドローンで代替できるため、現場作業員の数も減少していくと言われています。

電車運転士

踏切がなく、比較的高所を走る「ゆりかもめ」などはすでに自動運転が実施されています。

近くでの人・車などの往来が激しく民家などと隣接する電車については解決課題が多いものの、AIを使えばやがて自動運転が導入される可能性が十分に考えられます。

自動車と比べると規定の線路上を走る電車は、想定される事故やトラブルが少ないとされるので、AIによる自動化の波が押し寄せると、電車運転士の需要も減るとの見方があります。

タクシー運転手

2023年5月、福井県永平寺町における実証実験において、道路交通法に基づく特定自動走行として、国内で初めて自動運転レベル4での走行が許可されました。

自動運転レベル4は、車内は完全に無人、遠隔監視のみでの走行となります。

今後、完全無人運転のレベル5にまでAI技術が進歩し、自動運転車がさらに増加すれば、タクシーサービスは残ったとしても、運転手の仕事は少なくなったり、代替されたりする可能性が高まります。

ホテル接客室・フロントマン

すでにAIを使った無人接客を売りとしているホテルが、国内にも登場しています。

チェックインやチェックアウト、その他の日常的な問い合わせといったパターン化された業務であればAIでも十分に代替可能です。

ただ、日本の場合は「おもてなし」文化が根強く、とくに和風の旅館や民宿といった伝統的な施設では、対面での接客を重んじる傾向が強いです。

その辺りのニーズがどの程度残るかによっても状況は大きく変化するでしょう。

ライター

Webや雑誌などのライターは、AIに極めて仕事を奪われやすい職種の一つです。

とくにChatGPTをはじめとする生成系AIの登場で、AIの文章力の高さが広く世界に認知され始めており、日経新聞でもすでにAIライターが導入されています。

大規模言語モデル(LLM)によって最適な情報・言葉遣い・文脈からなる文章を超短時間のうちに生成することができるため、多くのライターに代わる能力は十分にあるといえるのです。

工場勤務者

工場のライン作業は、パターン化されたものが多いためAIにとっては得意分野といえるでしょう。

部品の仕分けや組み立て、検品など長時間続けているとヒューマンエラーを起こしかねない作業もAIなら正確にこなすことができるので、品質向上の面でも優位性が高いです。

繁忙期や急激に注文が増加した場合においても、AIは24時間いつでも必要なだけ稼働させることができるため、人間を使うよりも効率化とコスト削減が図れます。

薬剤師

2023年1月から、マイナンバーカードと連携した電子処方箋が解禁されました。

これによってオンライン服薬指導の普及が促進されると、AIを使えば決まった内容を余す所なく患者に伝えることが可能になります。

また、医師から発行された処方箋の内容に誤りがないかを過去の服用履歴や病状と照らし合わせて確認するという業務もAIが得意とする仕事です。

これらの業務が日常化すれば、薬剤師の仕事が少なくなると考えられます。

|AIが発展してもなくならない仕事

続いてAIが普及してもなくならない仕事を紹介しましょう。

AIには感情がありませんから、微妙な気持ちの動きや人ならではの複雑な事情を汲み取ることが求められる仕事の場合、簡単には奪われないと考えられます。

医者

医者はAIが発展しても簡単にはなくならないでしょう。

病気やその兆候を発見することについては、たとえ医者でもAIには敵わないレベルになりつつあります。

しかし、同じ病気でも体質や年齢、病歴、置かれている経済状況などは患者によってまちまちです。

その辺りの不確定要素を総合的に考慮して治療にあたるのは人でなければ難しいでしょう。

専用機器を使った繊細で複雑な手作業についてもAIが真似することは困難といえます。

看護師・介護士

医者と同様、看護師や介護士もAIに取って代わられるとは考えにくいです。

病人や高齢者の場合、様々な理由から意思表示が困難になることが少なくありません。

迅速な判断が必要な相手に対して、AIが常に的確な措置をとるのは難しいでしょう。

症状のヒアリング、点滴や注射、トイレや風呂の同伴、夜間対応などは、専門知識のある人でなければこなせません。

むしろ高齢化の加速により、ますます需要は拡大すると見てよいでしょう。

保育士・教師

保育士は、分別がつきにくい子ども達に合わせたアプローチや思いやりが必要な仕事です。

教師も児童や生徒が人生の基礎を築いたり、適切な進路を選択したりする後押しをしなければなりません。

学力の違いや、得意不得意、また友達を作るのが苦手といった個人の特性に応じた適切な指導が求められることもあるでしょう。

いじめ防止にも注力しなければなりません。

このような領域までAIが網羅することは非常に難しいと考えられます。

弁護士・裁判官

法律的な弁護や裁判が必要とされる場合、そこに至る背景や動機には人ならではの複雑な要素が多面的に折り重なっていることが少なくありません。

ときには、法律や判例の枠に当てはめてマニュアル通りに判断することが適切でないケースもあります。

情状を酌量したり執行を猶予したり、被疑者の生い立ちにまで遡ったうえで事の是非を判断するといった高度な行為は、AIでは難しいため、弁護士や裁判官の代わりは務まらないでしょう。

営業・コンサルタント

営業やコンサルタントは、クライアントの抱える課題に対して解決策を提案したり、要望に応じてカスタマイズしたりする必要があります。

場合によっては、クライアント自身が気づいていない問題や勘違いが潜んでいることも考えられます。

その域まで踏み込んだ上で最適解を示し、しかも相手の予算の範囲内で納得のいくサービスを提供するのは、決して容易いことではありません。

その肩代わりをAIが行うのは、非常に難しいでしょう。

カウンセラー

カウンセラーは、相手の話を聴きながらそれに合わせてアドバイスをし、そのアドバイスに対する相手の反応を見ながらさらに踏み込んだアドバイスを行う、といったことを繰り返す必要があります。

相手の納得を得る解決策を見出すには、言葉以外にも目つきや顔色、声のトーンといった様々な要素を加味したアプローチが不可欠です。

よって感情を理解することが苦手なAIにカウンセラーの代わりをすることは難しいと考えられています。

クリエイター

人間性が重視されたり、ニーズに応じて的確な解決策を提供したりすることのできるクリエイターは、AIに仕事を奪われることは少ないでしょう。

この人の作品でなければならない、あの人ならではの雰囲気が好きという抽象的で曖昧なものの代わりをAIが果たすことは難しいからです。

クリエイターといってもその範囲は広いので、すべてが同じとはいえません。

独自の世界観や唯一無二性を発揮できることが生き残りの前提といえます。

データサイエンティスト

ビジネスとITの両方の知識が必要なデータサイエンティストも将来的ニーズは非常に高いでしょう。

データサイエンティストは、AIと対立関係にあるのではなくむしろデータ分析や予測などにAIを活用するので協力関係にあるといえます。

AIを上手く活かしながらも新規事業立ち上げや新製品開発の際に、市場の状況やトレンド、競合の動向などを総合的に勘案して意思決定を促すところまでを、AIが真似することは難しいでしょう。

|AIの進化によって生まれる仕事

AIが進化すると様々な仕事がなくなると言われ、心配する声が多く聞かれます。

しかし実際には、新たに生まれる仕事がたくさんあるとの予測もあります。

そこで続いては、AIの進化で生まれる仕事を紹介しましょう。

データ探偵

AIが収集したり、生成したりしたデータや、そのデータを分析したものに独自のアイデアを加えてマーケティングを考えたり、コンサルティングしたりするデータ探偵が、新たな需要を呼び込むと考えられています。

従来も似たような仕事は数多くありました。

しかし、AIをフル活用することによって、データの種類や収集範囲、信ぴょう性などがレベルアップすると考えられるので、より精度の高いパフォーマンスが期待できるでしょう。

散歩・会話の相手

すでにAI技術を搭載したペット型や独自キャラクターによるロボットが数多く販売されています。

介護施設の入居者や独居老人の話し相手としてかなりの効果があり、相当の人気ぶりです。

しかし表情を変えたり話したりするまでが限界で、生身の人間と同等のやり取りができるわけではありません。

そこで散歩に同行したり、直接の会話相手になったりといった人同士のコミュニケーションを目的とした仕事が生まれると予想されています。

ゲノム・ポートフォリオ・ディレクター

今や新薬の開発は、遺伝子の変異を読み解きながら病気の因子を撲滅したり、発症を抑えたりするレベルにまで進んでいます。

ゲノム(遺伝子)の変異を察知するのは非常に困難でしたが、AIを使うと短時間かつ高精度に行えると期待できます。

AIを使ったゲノム研究の成果を消費者に売り込む戦略を考えるゲノム・ポートフォリオ・ディレクターの仕事が、医学や薬学の世界において、今後はさらに大きく注目されると考えられています。

AI開発事業責任者

AIは、あまりに未知の領域が大きいため、ビジネスとしての可能性は無限大です。

しかしただその技術を使って新たなサービスを開発すればよいというものではありません。

ChatGPTが世界各国でさまざまな物議を醸していることからもわかるように、法律面やコンプライアンスの上でも総合的に適切な判断を下していく必要があります。

それを行うAI開発事業責任者の役割は、今後ますます大きくなっていくと考えてよいでしょう。

人間と機械の協働責任者

AIは、決して人間にとって敵対関係にあるのではありません。

AIを搭載しているいかんに関わらずロボティクスも含め、人間の仕事とこれら機械の仕事を適切に分担し、総合的に最高のパフォーマンスを実現させることが何より大切といってよいでしょう。

そのためには人材と機械の特徴を熟知した上で、各業界において、また複数の業界で横断的にこの分担業務を担う協働責任者の存在が強く求められるようになってくると考えられます。

サイバー都市アナリスト

これからの都市作りの方針は、電力、水道、ガス、通信、ゴミ回収などのインフラサービスを多くのデータを収集しながら適切に供給するサイバー都市化していくと考えられます。

したがって、さまざまなセンサーを使って収集した膨大なデータを分析し、異常があれば対処するなど、インフラ精度の向上と危機管理、またデータ漏洩を防止するセキュリティ管理を総合的に統括するサイバー都市アナリストの存在が注目されると予想されます。

量子機械学習アナリスト

量子力学の理論を応用して従来のコンピューターよりも高速に難解な問題が処理できる量子コンピューターの実装が現実化してきました。

これにより従来のパスワードが一瞬で解かれるなどデジタル世界の常識が一変するとも言われています。

ここにAIの機械学習を組み合わせることでさまざまな課題を解決し、新たなビジネスモデルを構築したり、広範囲にわたる社会貢献を実現したりする量子機械学習アナリストも大変注目されています。

AI支援医療技師

AIを搭載した専用機器を使い、遠隔地からでも医師が検査や診察を行うことができるようにサポートするAI支援医療技師も注目されてくるでしょう。

急激に進む過疎化により直接医師の診察が受けられない人の数は確実に増えています。

都心にいてもさまざまな事情から医療機関を訪れることができないケースも多いです。

そこで在宅医療を促進する上で、医師の代わりに訪問するAI支援医療技師の存在が欠かせなくなるといえるのです。

|AIで仕事を失わないために必要なスキル

AIの進化ぶりをみると、どの仕事でも絶対にAIに奪われることはないとは断言できません。

安泰と思われる職種でもいつ変化が訪れるかわかりません。

そこでAIに仕事を奪われないためのスキルについて解説します。

AIを活用するための知識

AIは、人間にとって決して敵ではありません。

現に多くの企業で人手不足を補ったり、さらに高度なサービスを提供したりするために、AIの本格導入が積極的に進められています。

大切なのは自分の仕事の分野や領域において、AIを上手く活用するための知識を持つことです。

その上でAIに任せられる部分と自分でなければできない仕事を明確にし、後者において独自性を見出し、しっかりと磨き上げていく努力をすることが大切です。

柔軟な発想力

過去に軸足を置いたマニュアル通りの発想は、人間よりもAIの方が得意なため、まともに戦ってもほぼ太刀打ちできません。

それよりAIがまだ学習していない未知の戦略、課題解決法を提示し、新たなビジネスモデルを確立したり、コンサルティングしたりできれば、収益を格段にアップさせたり、顧客満足度を高めたりすることができるはずです。

そのためにも、経験や業界の風習にとらわれない柔軟な発想力をもつことが大切でしょう。

コミュニケーションスキル

AIが発展しても人の心や微妙な気持ちの変化をとらえ、相手の立場に立って物事を考えることができる人は、仕事がなくなるリスクが減ります。

そのためにはコミュニケーションスキルを磨くことが大切でしょう。

その上で問われるのはまず聴く力をしっかりと身につけることです。

相手が求めていることを的確にくみ取り、どんな課題をいつ、どのように解決して欲しいのかを理解した上でそのニーズに応えることが必須といえるでしょう。

|まとめ

AIが発展することによって「なくなる仕事」と「なくならない仕事」さらに「生まれる仕事」について詳しく解説しました。

現在「なくなる仕事」で紹介した仕事に就いている方は、先を考えて不安な思いを抱かれたかもしれません。

しかし、完全になくなるとは限りませんし、AIを活用するための知識や柔軟な発想力、コミュニケーションスキルを身につけることで新たな活躍の場が得られるチャンスが広がると期待できます。

AIは、人間にとって決して敵ではありません。良さを活かし合いながらよりよい社会生活を送るための頼りになるパートナーです。

今後のAIの進化をそのようなポジティブな目線で捉え、更なるステップアップにのぞみましょう。