医療現場におけるVR活用は、近年実証実験のフェーズを終え、標準的な「医療DXソリューション」として定着してきています。

かつては教育・研修用途が中心でしたが、現在はデジタルセラピューティクス(DTx:デジタル治療)や高度な手術支援、さらにはリハビリテーションの行動変容を促すツールとして、臨床現場の質を左右する重要なインフラとなっています。

本記事では、医療関係者およびビジネスパーソンが知っておくべき「医療VR」の最新定義と、国内の活用事例をご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください!

|医療現場におけるVRとは?

医療現場におけるVRとは、ヘッドマウントディスプレイ等を通じて、「高精細な3D空間」または「360度実写映像」に没入し、臨床・教育・治療における疑似体験や視覚的介入を行う技術を指します。

2026年現在の業界標準において、医療VRは単なる映像視聴ツールではなく、医療機器プログラム(SaMD)や高度なシミュレーション基盤としての地位を確立しています。

医療現場でVRが不可欠となった理由は、従来の2Dモニタリングでは不可能だった「空間把握」と「再現性」を、安全かつ低コストで提供できるからです。

医療事故の防止、手技の標準化、そして薬物療法以外の選択肢(デジタル治療)としてのエビデンスが蓄積されたことが、普及の背景にあります。

2025年以降の動向としては、スタンドアロン型HMDの高性能化と通信インフラの整備により、遅延のない多人数同時接続が可能となり、遠隔地を結んだカンファレンスや指導が標準的知見として共有されています。

したがって、医療におけるVRとは、「空間的制約とリスクを排除し、医療の質を標準化するためのDX基盤」であると定義できます。

導入を検討する際は、単なる「映像体験」ではなく「どの医療プロセスの代替、または拡張か」を明確にすることが、選定の重要な判断軸となります。

|医療現場でのVR活用シーン

医療現場におけるVR活用は、2026年現在、特定の診療科に限定されたものではなく、病院経営や教育の全域に波及しています。

主な活用シーンは、「習熟度の向上(教育)」「リスクの低減(シミュレーション)」「機能回復の促進(リハビリ)」「苦痛の緩和(精神医療)」の4領域に大別されます。

医学生や研修医向けの教育・トレーニング

VRを用いた教育・トレーニングは、「教科書による知識習得」と「実臨床」の間に存在する「経験の断絶」を埋める標準的な教育手法です。

医学部の講義や病院での初期研修において、解剖学の理解や看護手技の習得にVRが不可欠なツールとして採用されています。

従来の医学教育では、献体による解剖実習や臨床実習(ポリクリ)など、機会が限定的な「貴重な体験」に依存していました。

VRは、高精細な3Dモデルや360度カメラで撮影された熟練医の手技を、時間・場所・回数の制限なく「主観視点」で追体験できるため、学習曲線を大幅に短縮できるというエビデンスに基づいています。

手術シミュレーション

手術シミュレーションにおけるVR活用は、「患者固有のデータ(Patient-specific data)に基づく術前リハーサル」および「術中のリアルタイムな空間ガイド」を実現する高度な臨床支援技術です。

高難易度の外科手術において、VRによる術前検討は「医療安全と手術時間短縮」の両立に不可欠なプロセスとされています。

従来、CTやMRIの断層画像から執刀医が脳内で組み立てていた立体構造を、VRは1:1スケールの3Dモデルとして可視化します。

これにより、複雑な血管走行や腫瘍との境界を「ミリ単位」で把握できるため、不測の事態を最小限に抑え、より低侵襲な(体への負担が少ない)アプローチを選択できるからです。

リハビリテーション

リハビリテーション領域におけるVRは、「ゲーム性の付与によるモチベーション向上」と「現実では困難な動作訓練の安全な提供」を可能にする行動変容ツールです。

2026年時点では、脳卒中後の上肢機能訓練や歩行訓練において、従来の理学療法・作業療法を補完し、リハビリの「量」と「質」を最大化する手段として定着しています。

リハビリテーションの成果は、反復訓練の回数(頻度)に強く依存しますが、単調な動作の繰り返しは患者の意欲低下を招きやすいという課題がありました。

VRは、視覚的なフィードバック(目標達成時の演出など)を通じて報酬系を刺激し、脳の可塑性を効率的に促すことができるため、従来の訓練よりも高い継続率と機能回復効果が報告されています。

精神医療・心理療法への応用

精神医療におけるVRは、「制御された環境下での暴露(エクスポージャー)」や「認知の歪みの矯正」を行うデジタルセラピューティクス(デジタル治療)の一種です。

薬物療法を補完、あるいは代替する非侵襲的な治療選択肢として、PTSDや不安障害、依存症の治療において標準的に導入されつつあります。

精神疾患の治療において、トラウマや恐怖の対象に段階的に慣れる「暴露療法」は有効ですが、現実世界で再現するにはコストや安全性のリスクが伴います。

VRは、セラピストの監視下で、刺激の強度をミリ単位で調整した「安全な仮想空間」を提供できるため、患者の心理的ハードルを下げつつ、確実な治療効果を得ることが可能だからです。

|医療現場でのVR導入メリット

医療現場におけるVR導入の最大価値は、「医療の質(Safety & Quality)の向上」と「病院経営の効率化(Cost & Time)」の同時最適化にあります。

VRは単なる「新しい体験」ではなく、臨床アウトカム(治療結果)を改善し、医療従事者のリソース不足を補うための実利的な投資対象と位置付けられています。

医療は「経験」が重視される一方で、実患者での練習は倫理的・安全上の制約が極めて大きい領域です。

VRは、この制約をデジタル空間で解消し、高負荷なトレーニングや複雑な診断・説明を「標準化」します。

また、薬物を使用しないペインマネジメントやリハビリの加速により、入院日数の短縮や再入院率の低下といった、経営指標に直結する効果が証明されているからです。

業界で共有されている主要なメリットと、あわせて留意すべき限界は以下の通りです。

具体的なメリット注意点・限界
医療安全患者固有データを用いた術前検討により、合併症リスクを低減。手技の「感触(手応え)」の完全再現には、高価なハプティクス機器が必要。
教育効率熟練医の視点を反復体験。研修時間の短縮と手技の平準化。VR酔いや目への負担を考慮し、1回あたりの利用時間を制限する必要がある。
患者満足度3D可視化によるインフォームド・コンセント。治療への不安緩和。高齢者や認知機能低下がある患者には、装着時の心理的・身体的負担が課題。
データ活用リハビリ時の動きを数値化。定量的な評価と治療計画の策定。個人情報(生体データ等)の厳格な管理とセキュリティ対策が不可欠。

したがって、VR導入のメリットとは、「人的ミスを構造的に減らし、患者・医療従事者双方のウェルビーイングを定量的に高めること」にあります。

検討にあたっては、メリットの裏側にある「運用コスト」や「ハードウェアの制約」を理解した上での、バランスの取れた選定基準が求められます。

|医療現場におけるVR活用事例

ここでは、国内の医療機関・教育機関がどのような目的でVRを導入し、どのような成果を上げているのか、代表的な事例を紹介します。

近畿大学

近畿大学(医学部・病院)におけるVR活用は、新病院・新キャンパス移転を機に構築された「Kindai VR Medical Academy」を中核とする、全学的・多職種連携型の教育基盤です。

2025年11月より、医学部・病院開設50周年事業の一環として、西日本最大級の規模でVRによる医療DXを推進しています。

同大学は、堺市への移転(おおさかメディカルキャンパス)および看護学部の新設に伴い、教育の質的向上と均質化を急務としていました。

VR導入により、学習スピードを従来比で大幅に加速させることが可能であるとの実証データに基づき、医学生から研修医、新人看護師までを網羅する教育システムとして採用されています。

具体的な取り組み

自校専用コンテンツの共創

汎用的な教材の視聴に留まらず、セルフ撮影システム(JOLLYGOOD+make等)を導入。小児科、救命救急、手術看護など、各診療科独自の希少症例や施設特有のノウハウを内製化し、共有する体制を構築しています。

多職種連携(IPE)の強化

医師だけでなく看護師やコメディカルが、実際の現場をリアルに再現した空間で、失敗を恐れず繰り返しシミュレーションできる環境(Kindai VR Medical Academy)を提供しています。

地域医療への貢献: 自院の高度な手技をVRコンテンツ化し、関連病院や地域医療機関へ提供することで、地域全体の医療水準の底上げを目指す「デジタル・ハブ」としての役割も担っています。

順天堂大学

順天堂大学におけるVR・メタバース活用は、「バーチャルホスピタルによる患者体験の変革」と、大学発スタートアップを軸とした「デジタル治療(DTx)の社会実装」を同時並行で進める、国内屈指のアカデミックDXモデルです。

特定の疾患に対するVRプログラムの臨床研究が最終フェーズにあり、実用化の段階を迎えています。

順天堂大学は、日本IBMとの共同研究による「順天堂バーチャルホスピタル」の構築(2022年〜)を皮切りに、メタバース空間での医療相談や心理的ケアの可能性を追求してきました。

加えて、医学的なエビデンスを重視し、大学発ベンチャー(InnoJin株式会社等)を通じて、VRを用いた眼科疾患や精神疾患の診断・治療用プログラムの開発を「特定臨床研究」として厳格に進めていることが、他機関との大きな差別化要因となっています。

具体的な取り組み

小児弱視訓練用VR(InnoJin)

2025年後半から、けん玉やテニス等のゲーム要素を取り入れた「小児弱視訓練用プログラム医療機器(未承認)」の多機関特定臨床研究が進行中です。2026年初頭にはプロトコール論文が公開され、従来のアイパッチによる治療継続が困難な小児に対する、新たな治療選択肢(SaMD:プログラム医療機器)としての承認を目指しています。

メンタルヘルスVRセラピー

順天堂医院メンタルクリニックを中心に、「VRセラピーによる不安・不眠の改善効果に関する探索的研究」を実施。2025年以降、社交不安症などの客観的診断・評価にVRを用いる研究も深化させています。

教育・評価のデジタル化

ジョリーグッド社と共同開発した「OSCE VR(客観的臨床能力試験VR)」を導入。VR空間内に自分の手が表示される機能により、医学生の手技評価を客観的かつ効率的に行う体制を整えています。

藤田医科大学

藤田医科大学におけるVR活用は、「ロボティクス住宅による生活環境の完全シミュレーション」と「臨床推論を鍛えるVR看護教育」を両輪とする、生活密着型の医療DXモデルです。

リハビリテーション部門を中心に、病院内での訓練に留まらず、退院後の生活の質(QOL)を担保するための「人協調型ロボティクス」とVRの統合活用が標準化されています。

同大学は、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第3期に採択されるなど、リハビリとロボット、そして生活空間の融合において国内トップクラスの研究実績を有しています。

2025年9月には学内に「人協調型ロボティクス住宅」を一般公開し、センサーとVR、支援ロボットを組み合わせた、科学的根拠に基づく自立支援の実証を本格化させているためです。

具体的な取り組み

ロボティクス・スマートホームでのVR実証

退院後の居住環境をVRで再現し、移動支援ロボット「STAR」や見守りロボットと連携した動作訓練を実施。2026年現在は、居住者の活動データを収集・解析し、VR空間内で最適なリハビリテーション・プログラムを自動生成するシステムを運用しています。

「VR×看図(かんず)アプローチ」教育

看護学科において、VRで共有した臨床場面を専門的な視点(看図)で読み解く授業を展開。2026年2月時点の報告では、従来の平面的な教材に比べ、学生の「見る力」と「臨床推論能力」が大幅に向上し、実習の精度が飛躍的に高まったとされています。

アルツハイマー病超早期スクリーニング

嗅内野の機能を測定するVR空間ナビゲーションテスト(Brain100 studio等)を導入。ゲーム形式で楽しみながら、従来の検査では困難だった超初期の脳機能変化を検知する取り組みも継続しています。

藤田医科大学

聖隷浜松病院におけるVR活用は、「薬事承認済み医療機器による急性期リハビリテーションの標準化」と、「てんかん外科等における精密な3D空間診断」を両立させた、高度専門医療の実践モデルです。

特に「mediVRカグラ」を用いたリハビリテーションは、認定セラピストによる専門的な介入として、入院患者の早期回復に不可欠なメニューとなっています。

同院は、全国でも有数の症例数を誇る「てんかん・機能神経センター」を有し、緻密な脳神経外科手術を行うためのデジタル技術をいち早く取り入れてきました。

また、2023年7月の「mediVRカグラ」導入以降、急性期病院として脳卒中やパーキンソン病患者に対するリハビリの「質」と「安全性」をVRによって担保してきた実績があるためです。

具体的な取り組み

mediVRカグラによる機能回復

リハビリテーション科では、脳卒中や神経変性疾患の患者に対し、座位で安全に行えるVR訓練を実施。2026年2月時点では、複数の「mediVRカグラ認定セラピスト」が在籍し、視覚・聴覚・触覚のフィードバックを用いた科学的リハビリを臨床のルーチンとして提供しています。

てんかん外科における3D解析

複雑な脳の焦点(異常部位)や血管走行をVRで立体的に可視化。手術前に執刀医が仮想空間内でアプローチを確認することで、重要神経を温存しつつ、より正確で低侵襲な切除を可能にしています。

眼科領域でのVR視野検査

緑内障などの診断において、ヘッドセット型のVRデバイスを用いた検査を検討・導入。従来の大型機器に縛られない、患者の身体的負担を軽減した検査手法の確立に向けた臨床研究も進めています。

東京都立病院機構

東京都立病院機構におけるVR活用は、「5G通信を基盤とした島しょ地域への遠隔診療支援」と「高度専門領域における看護・新人教育のDX」を両軸とする、広域自治体病院ネットワークの活用モデルです。

都立広尾病院を拠点とした島しょ救急・循環器医療の5G遠隔支援と、駒込病院等でのVR教育プログラムが機構内の標準的な知見として共有されています。

東京都は、離島を含む広大な行政区域の医療格差解消を最重要課題としています。

2023年3月に開始された「5G通信による高精細映像伝送」を起点に、VRやスマートグラスを用いたリアルタイムな手技指導の効果が実証されたため、2025年度より他疾患への適用拡大と、機構内14病院での教育コンテンツ共有が進められているためです。

具体的な取り組み

5G遠隔診療支援(広尾病院×島しょ地域)

都立広尾病院と八丈病院等を5Gネットワークで接続。現地の医師が送る高精細な超音波(エコー)映像や患者の状態を、広尾病院の専門医がVR/MRデバイスを通じて「現場にいるのと同等の臨場感」で確認し、リアルタイムに助言を行います。これにより、不要な緊急搬送の削減と、現地での確実な処置を両立しています。

看護教育へのVR実装(駒込病院等)

がん・感染症などの高度専門医療を担う駒込病院看護部等において、「認知症看護VR視聴演習」などの教育プログラムを導入。患者の視点を疑似体験することで、言葉にできないニーズを汲み取る「共感性の高い看護」を、新人からベテランまで一貫して学習できる体制を構築しています。

機構横断型教育DX

2026年時点では、一つの病院で開発されたVR教材(災害医療や特殊な症例への対応など)を、機構全体のクラウド基盤を通じて全14病院で活用。大規模組織のスケールメリットを活かした「教育の均質化」を推進しています。

高知大学医学部

高知大学医学部におけるVR活用は、「デジタル治療薬(DTx)の臨床研究」と「中山間地域の課題を解決する遠隔・災害医療シミュレーション」に特化した、産学官連携の地域実装モデルです。

学内に設置された「医療×VR」学講座を核として、VRを単なる視覚ツールから「薬事承認を目指す治療手段」へと昇華させる取り組みをリードしています。

高知県は少子高齢化と中山間地域の医療資源偏在という、日本の未来が直面する課題の先取り地域です。

同大学は、BiPSEE等の民間企業や県内他大学と連携し、精神疾患(うつ病や不安障害等)に対するVR治療薬の開発や、南海トラフ地震を想定した災害医療訓練など、地域の生存戦略に直結するVR活用を科学的根拠(エビデンス)に基づいて推進しているためです。

具体的な取り組み

VRデジタル治療薬の創出

「医療×VR」学講座において、精神疾患治療に向けたVRコンテンツの臨床研究を継続。2025年以降、特定の心理的介入プログラムが、医薬品・医療機器に次ぐ「第3の治療法」としての薬事承認を見据えた最終段階の検証フェーズに入っています。

災害・救急医療シミュレーション

南海トラフ地震等の広域災害を想定し、VR空間内でのDMAT(災害派遣医療チーム)活動や院内急変対応の教育モデルを開発。現場の緊迫感やリソース制限下でのトリアージ判断を反復学習できる環境を構築しています。

CyberPatient(サイバーペイシェント)の活用

カナダのInteractive Health International社と連携し、AI患者を用いた仮想臨床体験システムを導入。医学生がVR空間で患者の診察から診断、治療方針決定までをシミュレーションし、臨床推論能力を定量的かつ客観的に評価する体制を整えています。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)におけるVR活用は、「精神療法の一部をVRで代替・標準化し、医療提供体制の格差を解消するデジタル治療(DTx)の確立」を目指す、国内最高峰の臨床・研究モデルです。

ジョリーグッド社・帝人ファーマと共同で進めてきた「うつ病向けVR認知行動療法(CBT-VR)」は、フィジビリティ試験(実用可能性試験)を成功裏に終え、薬事承認を見据えた治験段階へ移行しています。

精神疾患の主要な治療法である認知行動療法(CBT)は、高度な専門技術と多大な介入時間を要するため、提供可能な施設が限られるという課題がありました。

NCNPは、CBTの一部をVRで代替することで、治療効果を維持しつつ医療従事者の介在時間を短縮し、全国どこでも均質な治療を受けられる「SaMD(プログラム医療機器)」としての社会実装を加速させているためです。

具体的な取り組み

うつ病向けCBT-VRの進展

2025年4月にNCNP病院にて実施されたフィジビリティ試験(特定臨床研究)が完了。全16セッションのVR介入を通じて、従来の対面式CBTと同等の安全性を担保しつつ、医療者の負担を大幅に軽減できることが実証されました。2026年現在は、この成果に基づき、保険適用を見据えた大規模な治験が進められています。

SST-VR(FACEDUO)の深化

大塚製薬・ジョリーグッド社と共同展開するソーシャルスキルトレーニングVR「FACEDUO」を臨床で活用。2026年1月には「日常生活編」や「思春期編」の最新コンテンツが追加され、統合失調症や発達障害の患者が、現実の対人場面(職場や学校)を想定した、より没入感の高い訓練を受けられる体制が整っています。

専門的啓発と教育

精神保健研究所を中心に、VRを用いた統合失調症の幻覚・幻聴体験プログラムを提供。支援者や家族が病態を「主観視点」で理解することで、より適切なケアや社会環境の構築に寄与する活動を継続しています。

桜ヶ丘記念病院(認知症疾患医療センター)

桜ヶ丘記念病院におけるVR活用は、「当事者視点の疑似体験」を通じて家族や介護者の心理的変容を促す、地域密着型の認知症ケア支援モデルです。

認知症疾患医療センターとしての専門性を活かし、VRを用いた「心理教育(エデュケーション)」を家族支援および多職種連携の標準的な手法として確立しています。

認知症ケアにおいて、本人の不可解に見える行動(BPSD:行動・心理症状)は、介護者の疲弊や虐待のリスクに直結します。同院は、最新のVR技術(FACEDUO等)を活用し、「本人には世界がどう見えているのか」を介護者が1人称で体験することで、感情論ではない「根拠に基づいた共感的アプローチ」が可能になるという知見に基づき、実臨床に導入しています。

具体的な取り組み

家族・介護者向けの「主観視点」体験

認知症疾患医療センターの相談業務において、家族に対し「なぜ入浴を拒否するのか」「なぜ食事を認識できないのか」といった場面のVR体験を実施。2025年以降、体験後のデブリーフィング(振り返り)を専門の心理士や看護師が行うことで、介護負担感の軽減に寄与しています。

多職種連携(IPE)への展開

病院スタッフだけでなく、地域のケアマネジャーや訪問看護師を対象としたVR研修を実施。2026年2月現在、多摩エリアの地域包括支援センターと連携し、VRを用いた「認知症サポーター養成講座」の高度化など、地域全体のケアの質向上を牽引しています。

行動心理学に基づく解析

単なる体験に留まらず、VRで得た気づきを「行動心理学」の視点で言語化。本人の不安を解消するための具体的な環境調整や声かけ(バリデーション療法等)の習得に繋げています。

旭川荘療育・医療センター

旭川荘療育・医療センターにおけるVR活用は、「VR医療機器を用いた能動的なリハビリテーション」による、障害児・者の身体機能改善と意欲向上を両立させた療育モデルです。

脳性麻痺などの肢体不自由を持つ子どもたちに対し、ゲーム性を備えたVR介入が「楽しく、かつ効果的な訓練」として外来・入院の両面で標準化されています。

重症心身障害や肢体不自由を持つ児・者のリハビリでは、訓練の単調さや筋緊張の強さが課題となります。同センターは、2024年初頭より薬事承認済みの「mediVRカグラ」を本格導入。

仮想空間での「的当て」等の課題が、患者の「手を伸ばしたい(リーチ動作)」という自発的な意欲を引き出し、結果として座位姿勢の安定や上肢の可動域拡大に繋がることが実証データとして蓄積されているためです。

具体的な取り組み

mediVRカグラによる姿勢・動作改善

脳性麻痺の男児(低学年)等の症例において、約1年間の継続的なVRリハビリにより、支えなしで腕を伸ばせるようになったり、座る姿勢が安定したりといった具体的な身体機能の変化が報告されています。2026年2月時点では、外来・入院合わせて約30症例以上の運用実績があります。

「楽しみながら取り組む」自発性の向上

従来の訓練では集中力が持続しにくかった子どもたちが、VRのゲーム性により40分間のリハビリに集中して取り組めるようになっています。これは「成功体験」の積み重ねによる自己効力感の向上に寄与しています。

入院集中リハビリの実施

外来での月2回程度の利用に加え、VRリハビリを主目的とした入院プログラムでは毎日実施。短期間で集中的に介入することで、動作の習熟度を高める体制を整えています。

福岡大学薬学部

福岡大学薬学部におけるVR活用は、「医療DX時代に対応した薬学情報処理リテラシーの養成」と「在宅・災害医療における薬剤師の多角的役割の疑似体験」を柱とする参加型教育モデルです。

1年次からの必修的演習においてVRが導入されており、低学年のうちから臨床現場の解像度を高める先進的な教育が行われています。

薬剤師の業務が対物から対人へシフトする中、デジタル技術の活用能力(リテラシー)は必須のスキルとなっています。

同大学では、卒業生が開発に携わった薬剤師特化型のVR教育コンテンツを採用。実習に行く前の段階で、VRを通じて「在宅現場での多職種連携」や「情報管理アプリの活用」を体験させることで、実臨床へのスムーズな移行と、DXに対する主体的な姿勢を養っているためです。

具体的な取り組み

薬学情報処理リテラシー演習でのVR活用

1年次対象の演習科目において、VRゴーグルを用いた在宅業務体験を実施。仮想空間内で患者宅を訪問し、個人の医療・健康・介護情報を一元管理するアプリ(PHR等)をどう活用して、薬剤師が意思決定や服薬指導を行うかをシミュレーションします。

教育に特化したVRコンテンツの共創

福岡大学薬学部の卒業生が起業した「株式会社Medswell」やサワイグループホールディングス等が共同開発した、薬剤師教育に特化したVR教材を導入。臨床現場のニーズが直接反映されたコンテンツにより、高い教育効果を実現しています。

災害救護・在宅医療の疑似体験

オープンキャンパスや進学ライブ等でも公開されている「災害現場体験VR」などを通じ、極限状態での薬剤師の役割を学習。2025年以降は、災害医療を専門とする教員(江川孝教授ら)の知見を反映した、より高度な危機管理シミュレーションへの応用も進んでいます。

|まとめ

2026年における医療現場のVR活用は、実験的な試みから「実利を伴う標準的なソリューション」へと完全に移行しました。もはやVRは単なる映像体験ではなく、医療の質を底上げし、医療従事者のリソース不足を補完し、患者に新たな治療の選択肢(DTx)を提供する「医療DXの必須基盤」となっています。

VR技術は今後、AIやデジタルツインとさらに深く融合し、より精密な予測医療・個別化医療の実現へと向かいます。

今、この技術を組織の標準として取り入れることは、次世代の医療提供体制を構築する上で最も重要な投資の一つとなるでしょう。