近年、仮想空間に没入してさまざまな体験ができる「メタバース」が世界的に注目を集めています。
それは中国でも例外ではありません。
メタバースへの投資や開発が活発に行われており、多岐にわたる技術とサービスに支えられて、新たなビジネスチャンスが生まれています。
本記事では、中国のメタバース市場の概況や、注目されているビジネスや企業、今後の展望について解説します。
他国のメタバース事情について気になる方は、ぜひご一読くださいね。
目次
|メタバースとは
「メタバース」という言葉は、「メタ(meta)」(超越した)と「バース(universe)」(宇宙)という言葉を組み合わせた造語です。
これは、仮想空間と現実世界を融合させたデジタルな領域を指します。
メタバースは、コンピューターグラフィックス(CG)を使用して表現される仮想空間であり、新たな次元でのコミュニケーションや体験を可能にします。
ユーザーはアバターと呼ばれる仮想的な自己像を通じて仮想世界に入り、他のユーザーと対話し、共同作業し、エンターテインメントを楽しむことができます。
現実の制約を超越し、新たなデジタル体験とコミュニケーションの機会を提供する概念であり、その可能性は今後ますます拡大していくことが期待されています。
詳しくは過去記事もご参照くださいね。
|中国でメタバースは注目を集めている
中国では、メタバース産業が注目されており、急速な成長を遂げています。
四川省は、2025年までにメタバース市場を約5兆円に拡大させる野心的な目標を掲げ、メタバース関連の産業団地の建設や有力企業の育成を計画しています。
この動きは、メタバースが「没入型体験と異空間融合によるデジタル世界への新たな入り口」であると位置づけ、経済発展に寄与する新たな産業として認識されています。
技術と理論の進歩に対する期待が高まっており、中国はビッグデータや人工知能を活用し、メタバースの発展をリードする立場にあるとされています。
しかし、安定的な基盤の確立と理論的な成熟が必要であり、過度の期待には慎重であるとの意見も示されています。
|中国で注目されているメタバースビジネス
中国は、SNSマーケティングやOMO(Online Merge Offline)施策の最先端で、メタバースビジネスも盛んに展開されています。
主なビジネスにどのようなものがあるのか具体的に説明し、最新の動向を解説します。
eコマース
主に、アリババなど大手プラットフォームが新たなビジネスアプローチを模索しています。
Z世代をターゲットに、物理的な商品からバーチャルなアイテムへの需要が増加しており、AR、VR、MRなどのテクノロジーを活用して、多感覚のショッピング体験を提供しています。
大手プラットフォームは、仮想空間内での商品体験を可能にするために、VRやARの機能を拡充し、バーチャルライバー分野にも注力しています。
また、ラグジュアリーブランドやECプラットフォームは、NFTやバーチャルアイドルなどを活用し、メタバースマーケティングを展開しています。
eコマースは、消費者に革新的なショッピング体験を提供する成長分野として急速に広がっています。
SNS
中国では近年、最新のメタバースライブ配信が登場しています。
Kuaishou、バイトダンス、BiliBiliなどのプラットフォームでは、バーチャルライブ配信が進化し、ユーザーに対話とエンターテインメントを提供しています。
これらの配信では、ユーザーは仮想的なアバターとしてコミュニケーションを楽しむことができます。
メタバースライブはVRゲームの要素を取り入れており、ユーザーはミニゲームを楽しむことで、没入感を体験できます。
SNS領域でのメタバース進化により、Z世代を中心に急速にユーザー数を伸ばしています。
これにより、ユーザー基盤を持つプレイヤーはメタバース黎明期においても優位性を発揮し、今後の展開が注目されています。
観光
上海市は、2025年までに年商3500億元(約7兆円)のメタバース産業を育成する目標を掲げています。
30の文化・観光メタバースプロジェクトを構築し、XR技術を用いた没入型体験を提供する計画を策定しました。
同様に、湖南省張家界市武陵源区も、地元観光経済のDXを促進するために「張家界メタバース研究センター」を設立。
デジタル技術を駆使して観光サービスの向上とイノベーションを推進しています。
観光スポットでもメタバースが活用され、氷雪とメタバースを組み合わせたインタラクティブなエンターテインメントが人気を集めています。
観光業界におけるメタバースの導入が進行中であり、観光体験の革新とデジタル化が急速に進展しています。
産業用メタバース
大連市工業情報化局は、2023年から2025年までの3年間にわたる「大連市産業用メタバースのイノベーション創出3カ年行動計画」を発表しました。
この計画では、産業用メタバースを通じて製造業の高度化やスマート化を推進し、大連市の経済活性化を目指します。
計画の主要な焦点は、インフラ整備の強化、コア技術の研究開発、実証実験の推進、革新的な施設の建設です。
また、中国のARスタートアップ企業も、産業用メタバース市場の成長に注目し、急成長を遂げています。
市場予測では、産業用メタバースによりスマート製造業は2025年までに急成長し、その規模は73兆7000億円に達する見込みです。
|中国でメタバースビジネスを展開する企業
中国では都市だけではなく、著名な企業も積極的にメタバース事業に取り組んでいます。
以下では、彼らがどのようなメタバースプロジェクトを展開しているかを紹介します。
アリババ
2016年11月1日に、中国最大のオンラインモール「淘宝(タオバオ)」内で、VRを活用したオンラインショッピングプラットフォーム「BUY+」を正式に開始しました。
このサービスは中国国内だけでなく、マツモトキヨシ、Macy’s、COSTCOなどの企業もこのプラットフォームに出店しています。
同社は、「2023胡潤中国メタバース潜在力企業ランキング」でもトップに位置し、メタバース分野で大きな発展潜在力を持つ企業の一つです。
ファーウェイテクノロジー企業であるファーウェイは、メタバース分野への積極的な取り組みを示しています。
中国のメタバース産業連盟(XRMA)に参加し、VRや音声・映像コンテンツの分野で幅広い経験を持つ企業と連携し、メタバース関連の課題解決に貢献しています。
さらに、胡潤研究院のランキングで、同社は2位にランクインし、メタバース分野での発展潜在力を示しました。
今後もメタバース開発に大いに貢献することが期待されています。
テンセント
テンセントは、中国の主要なインターネット企業であり、メタバース分野でも注目を浴びています。
同社はメタバース関連の技術とコンテンツを積極的に開発し、クラウドプラットフォームである「Tencent Cloud」を通じてメタバース向けのソリューションを提供しています。
胡潤研究院のランキングでも、同社はメタバース分野での潜在力を認められ、トップ企業の一つとして評価されています。
バイドゥ
バイドゥは、中国の主要な検索エンジン運営会社で、2021年12月27日に中国初のメタバースである「希壌(シーラン)」を発表しました。
これは「クリエイターシティー」という都市を中心に展開され、ユーザーは他のプレイヤーとの交流や中国の風景を楽しむことができます。
また、中国独自の要素として、SF小説「三体」の世界や少林寺での武術学習などが提供され、ユーザーに多彩なメタバース体験を提供しています。
ネットイース
ネットイースは、中国の大手ゲーム企業で、VR/AR、AI、クラウドゲーミング、ブロックチェーンなどの分野でメタバースに関連する強力な能力を持っています。
2021年8月には、「瑶台」という中国初のVRを活用した没入型バーチャルミーティングシステムを発表しました。
さらに、ユーザー生成コンテンツプラットフォームを展開し、メタバース領域に進出する計画を立てています。
同社は技術スタックを活用してメタバースコンセプトを実現し、競合他社に対抗する強力なポジションにあります。
ミホヨ
2012年に設立された上海のゲーム開発会社ミホヨは、世界的な大ヒットとなった「原神」で知名度を高めました。
さらに、中国のZ世代向けのソーシャルネットワーキングアプリであるSoulの主要バッカーであり、メタバース関連のプロジェクトに特化した研究センターを運営しています。
ミホヨは、小規模ながら独自のメタバースビジョンに焦点を当て、2030年までに10億人が住む仮想空間を実現することを目指しています。
|今後の中国におけるメタバース
中国におけるメタバース事業はさらに加速し、今後の動向は世界でも注目されています。
今後の方向性を示した行動計画の策定が発表されており、以下で説明しています。
「メタバース産業3カ年計画」を公表
中国工業情報化部(工信部)は、2023年から2025年までの3年間にわたる「メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画」を発表しました。
この計画は、メタバース関連のプラットフォーム企業を3から5社、関連産業クラスターを3から5つ育成し、メタバース産業の発展を推進することを目指しています。
計画には、科学技術・産業特区の設置、知的財産制度・産業標準規格の改善、関連企業への減税措置などの具体的な産業政策も含まれており、関係する省庁は連携を強化し、高等教育機関での人材育成を最適化し、国際協力を深化させることを計画しています。
中国のメタバース産業は急速な発展を遂げ、世界的なリーダー企業の育成が期待されます。
今後市場規模はさらに拡大する見込み
中国では、メタバース分野の発展に向けた重要な動きがさらに進行中です。
大手IT企業は業界アライアンスを結成し、政府も産業政策を進化させています。
上述した3カ年行動計画をはじめ、四川省もメタバース産業を促進し、市場規模を2025年までに約5兆円に成長させる計画を発表しました。
これには、産業用メタバースの基盤強化や技術開発、実証実験、施設建設が含まれています。
中国政府の支援と産業用メタバースへの注力により、中国のメタバース市場は急速に発展しています。
これにより、未来において中国のメタバースビジネス市場規模はさらに拡大する見込みで、国内外のプレイヤーにとって重要な市場となりつつあります。
|まとめ
中国のメタバース市場は、政府の支援や大手企業の参入などにより、今後も急成長していくことが予想されます。
メタバースは、ゲームやエンターテインメント、教育、ビジネスなど、さまざまな分野で活用されることが期待されています。
中国では、これらの分野ですでにさまざまな取り組みが始まっており、今後さらに新たなビジネスやサービスが創出されるでしょう。
また、中国は人口が多く、インターネットの普及率も高いことから、メタバース市場の潜在的な成長力は甚大です。
中国におけるメタバースの今後の動向に注目していきましょう。